第7話
「春昭くん! 一大事だ! もうすぐイルカショーやるんだって!! 早く席を取りに行かなきゃ!」
「もう完全にヒカリ達の事忘れて、水族館楽しんでますよね」
イルカショーは始まる十五分前だったが、会場はすでに結構な人数が席に座っていた。
「春昭くん! アタシはダッシュで飲み物買ってくるから、席を二人分取っておいてネ!!」
人差し指をビシッと俺に向けた先輩は、そう言い残して走り去ってしまった……。
仕方ないので会場の中段くらいの空いているロングシートがあったので、ロングシートの中央部分に座り、荷物を隣に置いて席取りをした。
会場の席の縦向きの間隔は結構狭い。
最初からロングシートの端に座ると内側へ行こうとする人たちが『あ、前すみません……』って何度もすることになるのが目に見えている。
この手の地味な手間が嫌いだから、俺は映画館やこういった催し物ではなるべく最初から手間が掛からない中央部分の席を取るようにしている。
「おまたっせー。席取ってくれてありがとぉ。アイスティーとオレンジジュースどっちがいい?」
先輩は両手に大きい紙コップのドリンクを持ってニコニコと微笑んでいるのだが、この二択は選択肢が狭すぎる……。
「私はどっちも好きだから、好きな方選んで貰っていいよー」
「じゃあ、アイスティーで……」
飲み物の代金も払い、特に先輩と喋ることも無いままチビチビとアイスティーを飲みながら時間が少しずつ過ぎていく。
「結構、人増えて来ましたね……」
何か普段と違う特別な演目があるのか、それとも時期的に夏休みだからいつもこれくらい人が多いのかわからないが、座っていたロングシートは明らかに本来想定された以上の人数を乗せていた。
会場は超満員で、俺と先輩も少しずつ奥へ奥へと押し込められ、隣の人――具体的に言えば右隣の子連れのおじさんと左隣の先輩と密着する状態になってしまった。
「いやぁ、ちょっと狭くなっちゃったねぇ……ごめんね」
想像以上の超満員で寿司詰め状態になり、自分が誘ったことに申し訳無さを感じているのだろう。
今日ずっと見てきたテンションが高い先輩とは違って、微笑んではいるものの物凄くしおらしい物言いだった。
「これくらいなら余裕ですよ」
「ありがとう、そう言って貰えると助かるよー。ま、袖振り合うも多生の縁って言うし、知り合って数時間でこれだけくっついちゃったんだから、君とは相当な縁があるみたいだねぇ」
袖振り合うどころか、今日は最初から全力タックルを受けている気がするのだが……。
そんな先輩は人の気を知ってか知らでか、今も満面の笑みを浮かべている。本当に罪深い人だ。
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