第6話
固まっていた雅彦もようやく緊張がとけてきた様子だったから、水族館に入ってから改めて声をかけることにした。
「悪いな雅彦。せっかくの初デートだったのに」
「いえ、最初こそ動揺しちゃいましたけど、今は逆に加藤先輩がいるからちょっと安心してます」
「それなら良いけど、本当に邪魔する気はないからな。見える範囲で後ろをゆっくりとあの平野っていう先輩と歩いていくから、好きなペースで進んでくれ」
「加藤先輩こそ、全く知らない女子の先輩と一緒にさせてしまって、すみません」
「悪いのはヒカリだからお前が謝るんじゃねぇよ。まぁ、そこに関しては俺もどうして良いのかわからない部分だけど、こっちはこっちでなるべく楽しんでくるよ」
「ありがとうございます」
真面目なやつだな。こっちの心配までしやがって。
「おーい! ハルくーん! じゃなかった、春昭くーん!」
ついさっき知り合ったばかりの声が聞こえてきた。
「こっちにペンギンがいるよ! ペーンーギーン!!」
めちゃくちゃ水族館を満喫している様子が声からだけでうかがえる。
「なんだい、その顔はぁ。せっかくの機会なんだから水族館を楽しまなきゃ」
一体いま俺はどんな顔をしていたのだろうか。
少なくとも、水族館を楽しんでいる顔ではないというのは間違いないだろう。
「平野先輩、俺達一応はヒカリたちのお世話役で来てるんですから」
「でも、ほら! いまあのちっちゃいペンギンこっち向いてくれたよ! カワイイー!!」
水槽を見てはしゃいでいる先輩に気を取られていると、ヒカリと雅彦はいつの間にか次のエリアへと進んでいくのが見えた。
「平野先輩ー。ヒカリ達もう先に行っちゃってますよー」
少し先に進んで一緒に先へ進もうとしても未だにペンギンに見惚れているようだった。
「平野先輩ー?」
「わかってる! わかってるから!!」
本当にわかっているのだろうか。まったく。
「……まぁ、元々ヒカリ達の邪魔するつもりなかったし、俺は先輩のペースに付いていきますよ」
仕方がないと思って先輩の隣まで戻っていくと――。
「えーっと、うん、ありがと……」
という、しおらしい返事が返ってきて少しドキリとしてしまった。
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