第5話

「改めて自己紹介するねぇ。三年C組出席番号三十番、平野愛ひらのあい! 誕生日は六月十八日! 好きな食べ物は甘いもの! 来年の誕生日はあまーいプレゼント待ってるからネ! 卒業してるけど! 今日はヨロシクね! 雅彦くんとハルくん!」


 先輩は元気よくいらない個人情報を言い、笑顔で可愛らしく手を振っていた。


「あの、平野先輩……確かにヒカリはそう呼んでますけど、流石に初対面でいきなりハルくんはちょっと……」


「なんでよー。ヒカリちゃんはハルくんって呼んでるじゃんー。ケチかよー」


 先輩がヒカリの肩を揉みながら、不貞腐れた顔で頬をふくらませている。


 流石にヒカリも苦笑いして少し呆れているようだった。


「えっと……。じゃあ、せめて春昭でお願いします……」


「おっけー! 春昭くん! ヨロシクね!」


 なんというか、一人だけ突っ走って、全く追いつくことが出来ないけど、所々から悪い人ではないというのは伝わってくる。


「いやぁ、それじゃあ行こうかねぇ、ダブルデートってやつ」


「「「ダブルデート!?」」」


 変な所で先輩以外の三人の声がハモってしまった。


「あれ? そういうつもりで呼んだんじゃないの? ヒカリちゃん?」


「そ、そういうつもりでは無かったんですけど……。勇気がなかったから、ついてきて欲しかっただけで……」


「でも、それだとせっかくの雅彦くんとのデートなのに、アタシ達が邪魔になっちゃうでしょ?」


 それはわかる。俺もそう思って辞退していたんだから。


「だから、いっそのことダブルデートにすれば雅彦くんも気にならないだろうし、アタシと春昭くんは今後本番に向けた練習になるってわけで」


 だからといって、その理屈はおかしい気がする。


「いや、でも、俺と先輩って知り合って一時間も経ってないですけど、そんな……」


「そこはヒカリちゃんから耳にタコが出来るくらい聞いてた幼馴染というのを信用することにするよ!」


 先輩がガハハと高らかに笑っている。


「さぁ行こう! 若人よ!」


 全員の背中を先輩がバンバンと叩き、我々一行は水族館へと向かうのであった。

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