第1話

 それは夏休みが近づく頃、一本の電話から始まった。


『それでね、ハルくん。結局、安藤あんどうくんとはお付き合いすることになったの』


 ハルくん――この俺、加藤春昭かとうはるあきのあだ名だ。


 幼稚園の時からの付き合いで、高校二年の十七歳の今に至るまでの幼馴染――氷川ひかわヒカリからその連絡が入ってきた。


 腰まである長くスラリとした黒い髪の毛は美しく、品があって物静かで、スカートから出る細くスラッとした脚はヒカリの体型の良さを体現している。


 幼馴染の俺が言うのもなんだが、こいつがモテるのも無理はないと思う。


「いいんじゃないか? 部活の後輩だからそれなりには知ってるけど、雅彦は悪いやつじゃないしな」


 今日、俺の所属するバレー部の後輩である安藤雅彦あんどうまさひこがヒカリに告白をしたらしい。


『そ、そのことなんだけど……』


「なんだよ、まだ何かあるのかよ」


『あのね、安藤くんから今度一緒にお出かけしよってお誘いがあってね……』


「そうか、よかったじゃねーか」


『でも、私そんな誰かと二人で一緒に遊びに行くなんて初めてで……』


「何言ってんだ、俺とは何度も遊びに行ってるだろ」


『ハ、ハルくんは別だよ!』


「はいはい、それで?」


『だからね、お出かけする時にハルくんも一緒について来て欲しいなって思って……』


 何を言っているんだコイツは……。


 付き合いたての恋人同士の初めてのデートに保護者を連れて行くとか、小学生でももっとマシなデートをするぞ。


「絶対行かないからな。そんな恋人二人に挟まれる独り身の俺の気持ちを考えろよ、お前得意だろ? 文系なんだから」


『そこをなんとか!』


「絶対にいやだ。四人とかもっと多いならともかく、お前ら二人と俺の三人って、俺なにしてればいいんだよ」


『え? 四人ならいいの?』


「そういう意味じゃねぇよ」


『ちょっとだけアテがあるから、明日学校で聞いてみる! 待っててね、ハルくん!』


「お、おい!」


 そこで電話は切れてしまった。


 嫌な予感がする……。というか、嫌な予感しかしないぞ……。

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