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赤ん坊は『生命の樹』からの贈り物である。
成人した大人の2人1組、男同士でも女同士でも、男女でも無性別とでも、魂が入っていれば創造主にとっては関係ない。
二人が死ぬまで一緒に過ごし、助け合い、喧嘩して、肩を組んで夕焼けを歩く仲で居たいと思うのであれば、その二人は結ばれるべき、だと創造主は定義した。
その1組が住もうと決めた土地周辺の草を摘んで、一緒に編む。これが我々の世界で言う、結婚のケーキ入刀と同じ初めての共同作業になる。
編み紐は2人の身長を足した合計の長さまで編むことがこの世界の通例で、切り分けたときに実際に枝に結べる余裕のある長さで切らなければならないのが暗黙の了解。子供を授かるためには、『生命の樹』の枝に直接結ばなければならないからだ。
二人だけの生を謳歌したいのであれば2等分に、子供がほしいのであれば夫婦ふたり分+頂きたい子供の数に切り分ける。
『生命の樹』は下界に点在しており、通常は樹を中心に村や街が形成されていく。
もしも夫婦に子供を育てる権利と資格と覚悟があると創造主に認められたのなら、枝に結ばれた編み紐の位置に大きな実が実る。『実』は様々な大きさで、伝わる言葉で言うのであれば『未熟児』や『障害児』の子も授けられる。
その場合その家は、周りから更に盛大に祝われ『試練を授かった一際特別な子』として必要な助けを受けながら生きることになる。
ちなみにだが、虐待や両親を先に亡くした等の場合は、管理者の手によって養子で別の家族に迎え入れられることになっている。これは四肢がどこか欠損していたりなどで物理的に一緒に編むことが出来ない夫婦に大体行くことになる。
しかし一つの実の中に二人同時に入っている『双子』は、大抵未熟児で祝われる対象であるが、王族で生まれた時は逆に嫌煙される。なにか不吉なことの前兆なんじゃないか。そんな考えが国民に過ぎる。
夜の国の双子、和国の双子そして、Earthの双子が同じ年に生まれた。
そのうちの1人が、黒目と真っ赤な瞳を持った龍の男だった。
男は双子の弟と共に生まれてきたのだが、弟は盲目を持って生まれてきた。龍人の王になるモノの実に親は居ない、不死身の従者が代を跨いで育てていく。
男は先代と争えるほど頭が切れた。帝王学も履修し初めた幼少期、閉じられたままの襖を開け覗いたことがある。そこには溢れんばかりの紙の本が積まれていた。こっそり夜布団を抜け出して、小さな蝋燭の明かりで読みふけった。時々弟を連れて小さな声で読み聞かせたりもした。彼は目が見えない分、耳がとても良かった。足音で誰が近くにいるのかを当てたし、服の擦れの音でも当てていた。
男にはどうしても弟に見せたい物があった。
天守閣の窓から見た街の全貌。早起きしてみる涼し気な風と夜明けの草原。どんな言葉も似つかわしくない、伝えられないもどかしさゆえの子供の願いだった。
男は大人になるまで、特に医学書を齧り付くように読み込んだ。もともと萎びていた本が更にボロボロになり、時々自ら忍んで古本屋に持っていき修理を頼んだりもした。
しかし弟の目はどうあがいても見える様になることはなかった。男の手から弟はどんどん離れていき、城を抜け出して姿が見えなくなることも増えてきた。男は王としても多忙になり、段々と目が死んでいった。
男には夜だけが好きだった。ただ弟のためだけに知識を詰め込む静かな1人の時間が、唯一心を癒やし支えてくれた。
ある日の夜、窓枠の方向から手を伸ばされ、男は本を取り上げられた。
『そんなにこの本は面白いのか?』
いるはずのない、ひょうきんな女の声が響く。
男は即座に退いて視界に捉えた。窓枠に座りもたれかかり、本の表紙を眺めるその影は青い目をのぞかせて笑っていた。
『お前には届かない願い事がある そうだろう?』
影は男に首を傾げて、手のひらに載せた。黙りこくった男の目には、まだかすかに燃えている切望が見えていた。
『叶える方法があるよ? その代わりやって欲しい事があるけどね』
男は今、闇の中で藻掻いていた。ただもうその瞳には後悔の黒い涙しか残っていなかった。
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