双龍の国
13頁目
王子を送り届けたSは、宿場町のはずれでとある男と敵対していた。
「久しぶりなのにひどいなぁ」
と男は不気味に笑いながら手元のナイフを弄んでいた。
「喜んでくれたっていいじゃないか」
それは、革靴に触手のように切れ端がうねるスーツを着ていて、口が耳まで裂けている、くせ毛の緑髪だ。目は隈が出来ており、中年ほどの男性だと見える。
「お前に出くわして喜ぶやつなんて居ないだろ」
「いいや? ……あの方だけは喜んでくださる」
狂気に満ち湯悦に浸った笑顔で答える。
「白き女王様がお前の首を望んでいるのさ」
刃物同士が火花を散らす。
真っ白な首筋の目の前で受け止められ、お互いの顔は鼻の先まで近づく。
「ここまでどれだけ探したか わかるかい? 耐え難い時間だったよ……ねぇ 獲物ちゃん?」
「その! 気持ち悪い顔を! それ以上近づけるな!!」
攻防はSが押されていく形で、少しずつ体制を崩されてゆく。一度ナイフを蹴り上げ遠くへやっても、次の瞬間には別のナイフを持って襲いかかってくる。手数も速く、手練であることをその体に理解らせてこようとする。
一瞬の隙を狙い、相手の目を潰した。
「いっ……あー また捕まえそこねちゃったなぁ……」
男はスーツの土埃を払いながら、小さく夜に向かって呟いた。
「はぁ…はぁ…二酸化炭素が足りん……!」
Sは森まで全力で敗走した。幹に背中を預けて座り込む。汗はかいていないが、ネックウォーマーをぱさぱさと引っ張りながら、口を開けて木の葉を見上げた。いくらか切られてしまった髪をいじりながらしばしの間息を整え、熱を逃がす。
「(Joker……しばらく姿を見ないと思ってはいたが まさかあの辺りまで最高幹部自ら出向くなんて……)」
思考の末に「あっ」と声を漏らす。
「やばい さっさと帰らないとまた面倒なことに」
立ち上がろうとした瞬間、頭上から銃口が刺さる。
その銃、AKMを持った男は真っ赤な瞳でSを見下ろしていた。
「今日はとことんツイてないな……」
観念したように両手を頭まであげ、「冗談だろ?」と言いたげな顔で見返す。紋章付き帽子を深く被った金髪のくせ毛の男は、銃口を下げて複雑な気分をため息にして吐き出した。
「家で大人しくしていろと 何度言ったら守ってくれるんだ賞金首さんよ……」
「仕事で外に出る用事があったんだ」
男は帽子のつばをあげ、Sの横にしゃがみこんだ。
「じゃあなんで俺の上司に見つかっているんだ 説明しろ」
「知らん」
「知らんじゃ済まん!……はぁ さっさと帰るぞ」
帰り道、ふと聞いた。
「こんな時間に帰るのは珍しいな まだ昼前だろ」
「あぁ なんだか体の調子が良くなくて 微熱だし帰れって追い出された」
通りで普段の剣幕がないと納得していたが
「丈夫過ぎるお前が微熱?明日は槍でも降るのか?」
「サバの雨なら降られた 生臭くてたまったもんじゃない」
「和国方面か」
「仕事で寄ったんだが……様子が少しおかしかった」
「どのように?」
「龍人が少なかった 普段なら賑やかに声が飛び交っているだろ」
和国は毎晩祭りをやるほど活気のある国で、普段なら近くの宿場町でもかすかに聞こえてくるほど騒がしい。
「妙だな 内乱が起きたんじゃあるまいに」
「Night王国でしか起こってないはずだ そういえば沈静化したんだって?」
「あぁ してたな」
「その口ぶりは……まさか貴様また首を突っ込んだな!?」
男はSの胸ぐらを横から掴んで叫んだ。八重歯より発達した牙が鋭く光った。
「仕事だって言っただろKiller!」
SはKの手を振り払って睨み返した。お互い未だ言い争いながら、千年樹へと一緒に帰っていった。
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