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 砕けた薔薇の宝石を踏み越え、長く広い廊下を歩いていた。

「巻き込んでしまい誠に申し訳ありませんでした!!」

 Zは深々と頭を下げていた。

「あ〜……えっと」

 目線をそらすと

「王族がそんな軽々しく頭を下げるなザフィーロ……」

「むしろ兄様は図々し過ぎます! 二人も倒していただくなんて!」

 軽い痴話喧嘩をする双子に、Sは少し居心地悪そうに肩をすくめた。

 真っ赤な絨毯の続く先に荘厳な扉がそびえていた。

「城の外見こそは火事もあってか真っ黒でしかけど 中身はあまり変わってませんね」

 Zはキョロキョロと見回しながら歩いていたので、絨毯のシワにつまずいてしまった。

「足元を見ていないからだ」

「あちゃちゃ……まだ履き慣れてないんですよ〜」


 真っ赤な炎に照らされた薄暗い王間に抜けた一行は、王座の少女を視界に入れた瞬間臨戦態勢に入った。

「待ってください 戦う気はありませんから」

 少女は降参の仕草をし、王座から降りてきた。階段を降りるたびにスカートが揺れ動く。

「信じてもらえないかもしれませんけど……」

 まだ年端もいかない少女の顔が照らされて、チョーカー唯一の宝石が輝いていた。両手を掲げたまま、申し訳無さそうな顔をしている。

「どういうことだ?」

「私に戦う手段もないですし……こんな死んだ体で成せることもないですから」

 少女はRの手の届く距離で立ち止まり、翼を下げながらお辞儀をした。それにつられてRも返した。

「お初にお目にかかります 赫月 夕香と申しますわ」

 少女は頭を下げたまま続ける。

「この度は私の家臣が大変失礼いたしました」

 頭をあげ、首に手をかけた少女はそのままチョーカーを外し、Rの手を取りながら静かに渡した。宝石は魔力的輝きを放っており、何かしらの魔具であることがひと目でわかった。

「これは一体」

 王が視線を戻すと、赫月はもう顔から黒く溶け始めていた。

「私は派閥争いに負けた一族 過去の存在ですから 死者が意味を持つかどうかは生者の行動次第ですもの」


「この国のすべてをどうか お願いします」

 赤い炎のろうそくはすべて消えていた。


 こうしてNight王国には灯りが戻った。国民は徐々に帰り始めており、活気が戻りつつある。広場では戻った国民が城から顔を出している二人の王を讃えていた。

 Rは下を見回して誰かを探していた。

「紹介したかったんだが どこにも居ないな」

「また来てくれますかね〜」

「それまでにその敬語グセを直そうな 弟よ」


 Sは遠目でその賑わいを見て、踵を返していた。

「今帰りですか 呪いのお嬢さん」

 教会の窓から顔を出した青年がSに話しかけた。

「だったら何なんだ」

「いや とっても可愛いかおしてるなぁって」

「ナンパはお断りだ」

「あら残念」

 青年はピンクと黒の翼をさげ、悪魔の尻尾を振り回していた。

「教会に悪魔がいるなんてな」

「僕はここの宣教師だからね 住んでて当たり前でしょ?」

「悪魔が宣教師?へぇ 不思議なこともあるもんだな」

 Sはそのまま振り払い、青年だけが残された。

「また近いうちに会うかもね……へへ 楽しみだなぁ」

 にんまりと笑いを溢して、夜は更けてゆく。


 第1章ー夜の国 完

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