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 廊下を抜け扉を抜けた先に、長方形のテーブルの誕生日席にたった一つだけ椅子がおいてあるだけの部屋に出た。

「食堂か 個数的に王族の……?」

 扉を閉めた瞬間、Sの頬を銃弾がかすめた。テーブルの上に華奢なメイドが立ち塞がり、手にはリボルバーが火薬の香りを漂わせている。

「ごきげんようお客様」

 メイドは瞳を見せぬまま冷徹に笑った。

「手厚い歓迎だnっ!!」

 Sが言葉を話した瞬間、また銃弾が扉にめり込んだ。髪の切れ端が床に落ちた瞬間、それをも撃ち抜かれた。

「(問答無用だな……)」

 テーブルの上から動くこともなく、リボルバーを胸の前に引き寄せてじっとしている。少しでも動く素振りをすると、ダァン!と部屋に響く。メイドが見回す気配もなく、一点を見つめ銃だけを向ける。

「(避けないと確実に急所射抜いてくる どういう原理だ?)」

 先程の戦いでネックウォーマーに入り込んだ瓦礫を反対方向に投げ込んだ。音を立てた瞬間、メイドは勢いよく振り返り瓦礫を撃ち抜いた。その背後から手首の隠しナイフで首に突き立てようとした、が。

「ふむ 少しは頭が回るようですね」

 と、向き直ったリボルバーの銃口が眉間を捕らえた。顔に穴が開くと同時に背後に真っ黒な穴が開き、テーブルもろとも爆発した。Sは眉間を抑えながら着地した。

「あぁ……またうるさくなるな……」

 声はまるでラジオを通したようにガサガサとなっており、瞳の棒グラフも微妙に砂嵐が走っている。しかし立ち上がり、まだ人のように動いている。

「捉えたはずでしたが まだ動けるのは関心です」

 リボルバーに弾を込めつつ、無傷のまま煙から出てくる。先程まで見えていなかったネックレスが揺れている。

「先程は何が開いたのでしょう? 扉の音ではなかったし まるで空間が切り開かれたような不穏な音……」

「(見えていたのに 扉と迷う……?)」

 彼女はポケットから取り出したものを四方八方に投げ出した。撃ち抜かれたそれは、火花を散らして爆音を鳴らし始めた。

「ば 爆竹……!」

 メイドは耳を塞いで苦悶の表情で食いしばっていた。

「(やはり耳を頼りにしていたか)」

 銃を手から離したその瞬間、メイドは胸に刃を突き立てられた。ネックレスの紐が切れ、床に落ちる。

 メイドは服ごと真っ黒に染まり、ネックレスを残してドロドロに溶けて消えてしまった。

「消えた……」

 床をさすり痕跡を探したが絨毯にすら何も残っていない。

「ここに居る奴らは生き物ですらないのか?」


 一方その頃。

「琥珀も……また逝ってしまったわね」

 少女はぼうっと虚空を見つめてこぼした。

「はい 誠に遺憾でございます」

 王座の階段の下には、膝をつき頭を垂れた、呪いの髪色の男がそう言った。

「しかし 私が必ず仕留めます 二人の仇も必ず……」

 男は光を失った目で、そう言い残し扉を締めた。

 薄暗い王間で、少女は寂しそうに呟いた。

「もう……いいのですよ……水宝……」

 すすり泣く声が響くだけだった。

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