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 Night王国城、謁見の間。

 血のような髪の少女は巨大な王座からお行儀よく座りながらも、足をブラブラさせていた。ふらつくこともなく、どこかへ行くこともなく、何をするわけでもなくじっとしていた。

「私、どうしてここにいるのかしら……」

 虚ろな目をした少女は、暗闇に言葉を投げかけた。


 闇の中に溶け込むようにそびえ立つ城の目の前に二人はたどり着いた。

「城がこんなに真っ黒に……」

「鍵は 開いていそいうだな」

 ぎぃ……と音を響かせて薄い光が差し込む。Sが中に入り込むと、背後でバタンっと音がなった。

「おい もう少し静かに」

 暗闇に唯一人捕らえられた。

 ぽぽぽっと紫の灯火が奥へ続いていく。

「よぉ! 侵入者」

 薄く照らされた天井のど真ん中に、忍者の格好をした男が逆さまにぶら下がっていた。音なく降りてきた男はSに近づいてくる。

「聞いていたやつと全然違うけど とりあえず排除させてもらうぜ」

 クナイの雨が走り抜けた跡を記録するように刺さる。急旋回で手をついた瞬間に違和感が走った。手袋どころか右の掌からまきびしが貫通している。目を凝らせば大量のまきびしが暗がりに同化している。

「へへっ その量で動けるやつ中々いないはずだぜ 普通は靴底どころか足裏ごと貫ける特製品だずぇぇぇぇぇぇ!?」

 爆発音とともに瓦礫の山が現れる。

「おいおいおい!爆弾仕掛ける時間はなかったはずだぞ〜!?」

 男が無傷のまま残骸の中からガラガラっと降りてきた。Sはなにも持っていない。

「隠し玉みたいなもんさ」

「降ろされちゃったし もう天井ねぇしな……改めて」


「俺は赫月様の護衛 ”雲隠 福” 参る!」

「"Sakumi Amesthst"……名乗ったけどなんか意味あるのか……?」


 しばらく取っ組み合いを続けたが、一方的に押されていくばかり。

「手にも足にも隠しナイフとか変なやつ!」

 雲隠は躱す気配がないが、未だ戦闘し始めたばかりのような姿だった。

 鎖鎌が左手に絡みつき、一気に引き寄せられる。クナイで首を一気に落とそうとした瞬間、Sは右手で顔面に思いっきり横殴りした。正確には刺さっていたマキビシごと平手打ちの形である。鎖で繋がっているため壁まで吹き飛ばされはしなかったが、その顔は半分真っ黒になりドロドロに溶けていた。黒い泥は時間が巻き戻るように元の色に戻った。

 ようやく確かな手応えを感じたことに唖然としたが、その隙に鎖が外れた。

「何だ今の 石が砕ける感触がしたな」

 ぼうっとした顔でゆっくりと姿勢が治すそれはまるでゾンビのようだったが、目に光が戻るとまた先程のように俊敏に動き始めた。

 先程まで回った舌が減り、距離を取り始めた。

 ぐっと足に力を込める。床がひび割れ、風を切る。近づき、離れ、近づきを繰り返す。

「(近づかれることを嫌がってるな)」

 その場に留まることなく、廊下中を動き回る雲隠。しかしその動きにはパターンが有る。彼女の視界には蹴った場所とその場所に戻ってくる%が表示される。

 ス……と動き出す。迷いなく、ある一点を目指して空間に入り込む。そこには視界の外から飛び出してきた雲隠。彼の目に写った拳は、左顔面をしっかり捕らえた。


 倒れ込んだ彼だったものは、闇の中へ消えていった。

 跡を追いかけるがそこには誰もおらず、紫色の石が砕け散ったピアスだったものが転がっているだけだった。

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