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「落ち合う場所がわからないなら探せばいい 得意分野だ」
SはRを連れてまたMarsを目指していた。クラゲを腕にからませて、時々流し目で、Rがしっかりついてきているか確認していた。
「よく夜の草原を出ようと思うな Moon LOADも出なくなって久しいのに」
「こいつがいれば足元は見られるしな」
「そういうことじゃなくて……ひっ」
目線の先には空中を泳ぐサメの姿があった。サメはこちらを見定めており、目があった瞬間猛進してきた。何十にもなった歯をぐっぱりと見せて視界が遮られた瞬間。
見事な蹴り上げで、サメが地面から直角に上に跳ね飛ばされていた。Rが抱えていた頭を上げると、頭上に振り上げた足を下ろすSがいた。
「……大型だったし死んではないと思うが」
「いやいやいやいやいやいや!! 待ってあっさり言われても困るぞ!!」
「なんだ」
「なんだ じゃない!なんだ今のは!?」
「え……夜の影響で凶暴化したサメ……?」
「違うそうじゃない」
「よくわからないなお前」
その会話の後ろで、空から降ってきて地面に叩きつけられた後、サメは一目散に闇に消えていった。
真っ白な壁が見えてくる。Sは正面の大きな門を無視して遠くから回り道をするように歩いていく。
「正面玄関は使わないのか?」
「私が捕まるだろうが……ほら」
指を指した先、門の前には門番が二人目を光らせている。登っているだけで一晩終わりそうなほど壁も高い。
「……無理なのか」
「私が賞金首だって言っただろ お前だって先日新聞で行方不明の写真が出てたんだし」
「出てたのか」
「全てにおいて話を聞いてないのか貴様は……とにかく裏口に回るぞ」
Sの行く通りについていく。東西南北に均等に設置された門のちょうど間、四角い街の角に近づいていく。ここは門番たちにも死角になっていて気が付かれることはない。
角のなんの変哲もないレンガを彼女が押すと、カチッと小さく音がなった。そのレンガから手を離し正面の壁を押すと、人一人通れるほどの少し小さめの歪な扉が開いた。
「隠し扉か」
「裏世界でも一部しか知らない裏口だ」
くぐり抜けると、Sは振り返ってニヤッと笑った。
「これでお前も裏世界の片棒を担いだってことだ」
彼は大きくため息をついてなにかを言おうとしたが、ワルにでもなったつもりなのか、無理やり笑い返した。
「結局王族だし 汚いことの一つや2つあるだろ」
「さぁ ぼ‥俺の親父は仕事も見せてくれなかったしな」
裏路地を歩いていく。Rはうえっとえづきながら、口周りを抑えてついてきている。彼の視線の先にはみすぼらしい姿の人間や死体、ゴミの山、ダンボールハウスの残骸、腐ったなにかだった肉塊など……白い街と比べてひどく汚れていた。
「こんな場所があるなんて……なんでお前は平気なんだ?」
「鼻がいいな 私は匂いを感じない」
「こんなにひどい匂い 誰でも……」
Rはそこまでこぼしてはっと話すのをやめた。目の前には光を失った純粋な瞳を持った幼子が、道の端に縮こまって転がっていた。遠目に見ても暴力を振るわれた跡を、壁にこびりついた血しぶきが物語る。微かに震える手は今にも止まりそうで、それを目の前にしてこれ以上の言葉を言うのは憚られた。
「ここで生きているやつもいる 世の中綺麗事だけじゃ回らない」
Sは見向きもせずに歩いていく。毎日このような惨状を見ているからだ。
「安心しろ 行きつけの店だ」
”Bar-Carrot”の看板の前を通り、白い扉の中に今度は二人で入っていく。
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