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青年とAが真っ白なベッドの上で静かにお茶会の時間を過ごしていたその頃。
一階のリビングから廊下に出てその奥の階段を上り、Sは5階まで上がっていった。エレベーターがあればいいのだが、流石に彼女が勝手に改造するわけにもいかず、大人しく階段を利用している。階段は人一人余裕で通れるほどの木製の階段で、所々がギシ……ギシ……と鳴く音がする。
5階は下層に比べてフロアは少し狭い。階段の扉から奥に続く廊下を挟むように部屋が2つある。左手は木の扉、右手には金属の扉に閉ざされている。
Sは金属の扉の方に入る。
部屋は真っ暗だったが部屋に足を踏み入れると、部屋中の機械が共鳴するようにファンを回し始める。Sは部屋の一番奥の机に着くと、手袋を外して机に放った。その手は銀色で、指が動くたびにモーターのような音が聞こえる。彼女は上着のパーカーも脱ぎ椅子の背もたれにかけて席についた。
「ご主人!おかえりなさい」
声をかけたのは画面の中にいる、白い髪に毛先が赤く染まっている女性だ。画面の中を自由に泳ぎ、ニコニコと笑いかけた。
「メア 調べてほしいことがある」
「おっまかせくださーい!」
メアと呼ばれたその人物は、腕の中にいっぱい何かを抱きかかえて、戻ってきた。小さなウィンドウをたくさん集めてきたようだ。
「Night王国について情報集めてきました〜」
「ありがとう 順番に並べて置いていってくれ」
メアは腕の中のウィンドウを一つずつ上から、画面に貼り付けていくように配置していく。その間にSはウィンドウをタップして情報を確認していく。
Night王国とは、世界の北西に位置する常に夜の国。獣人が集まる国で、街中の灯火で明るく照らされていることで平和に生きている。国内には真っ白な城が建設されており、国を一望できる様になっている。最上階のバルコニーからは歴代の王が国民に向けて手を振る場所がある。
「……最近の記事はある?」
「ありますよ〜! 今朝のニュースがこちらです」
投げられたウィンドウには、朝刊の一面が大きく写されていた。
『Night王国、内乱の炎収まらず』
写真では焼け落ちたように真っ黒な城が写されていた。
記事には、突如街中の灯火が消え混乱に陥った旨が伝えられている。未だ消火しきれていない家屋が多く、生き残った数人で当たっているとのことだった。
その最後には男の顔写真と行方不明の広告が貼られていた。男の顔は先程の青年にそっくりだった。
集めた情報を整理し終え、背もたれにもたれかかり、深いため息を吐く。
「欲しい情報ありました?」
「あった 見つかってほしくなかったけどな」
メアが心配そうに顔を覗き込もうとする中、Sは背もたれから起きあがりじっと青年の写真を見ていた。
「これ 王族の服装だよな」
彼が写真の中で来ていた服は、マントを着込み、ルビーが全身にあしらわれた綺羅びやかな衣装だった。Sは、この衣装が王族しか着ることが許されないものだということをなんとなく知っていた。
「見比べないと確証は得られないが」
じーっと写真を見つめるSに
「この男がなにかあるんですか〜? きゃっまさか恋!?」
と顔を赤らめて小さく黄色い声を上げた。
「馬鹿なこと言うな」
「え〜? でも結構イケメンじゃないですか〜 いいじゃないですか〜 」
「いや今そういう場合じゃないんだが」
もし王族なら、自分が求める情報を持っているかもしれない……Sは画面を暗くし、部屋を後にした。
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