第二章:産まれても案じる
2.1 醜さと美しく踊る
蹟フォルミーカ学堂に所属は無い。
何処にも属さず、どの傘下にも加わっていない。
上下左右に繋がりを持たない完全独立組織であり、持つべきものは敵と言わんばかりに、どの方向を向いても敵がいて、過去を遡っても味方がいたことのない、度を越えた異常組織である。
そんな、あらゆる機関から敵と見なされる組織の成り立ちは、お世辞にも正当だったとは言い難い。
明治の中期。各地域にいる捨て子を保護し、適切な教育を与え、社会で生きられる人材として育成する。当時の学堂に血みどろの要素は欠片もなく、ただ純粋な志と由緒を兼ね備えた、ひたむきに正しき孤児院だった。
しかし、当時は捨て子と忌み子が等式で繋がっていた時代。根も名もない噂はたちどころに広まり、知らぬ何処かで上がった煙さえも学堂の子どものせいにされ、集団で暴行を加えられるなど、凄惨な事例は少なくなかった。
時代にそぐわない慈善活動を続ける中で、当時の学堂は、多くの人々にとって鬱憤の捌け口であり、罪を押し付けるスケープゴートであり、疑わしきを罰する環境の被害者であった。
自分達のせいで落ちぶれたわけでもないのに、名誉を挽回するために活動する日々。
可能な限り穏便にと、当時の学堂長は最後まで言葉による解決を願っていたが、得体の知れない敵である彼らが受け入れられる可能性が微塵もないことは、何処かで分かっていただろう。
それでも諦めず、地道な努力の日々を続けた。いつか、子どもたちが正当に生きられる世界になる未来を叶える為。その志は、どんな山よりも壮大で、どんな海より広かった。
けれど、民衆の中で捻じれに捻じれた正義感は、いつしか歪んだ大義として膨れ上がり、遂に暴発した。
それは目が眩むほどの熱と光を放つ炎となり、罪を焼き殺すように、孤児院を襲った。
火矢、火炎瓶、松明、酒、乾いた木材、狂気の熱。
あらゆる可燃物質に塗れた建物に対し、陽が落ちてから日付が変わるまでの間、あらゆる火種が絶え間なく投下され続けた。
当然、建物は全焼。跡地には雑草の一つさえ残っておらず、まさに教科書通りの、黒焦げの焼け野原となっていたらしい。
だが、この事件で本当に驚くべきは死傷者の数。
この騒動に軍や国は全く関与しておらず、全ては地域住民と、勇姿によって組した自警団によるものだった。
自警団の総数は約400名。実際に焼き討ちに参加したのは、野次馬も合わせると330名ほど。
その八割を占める264名の内209名が、その当時の孤児たちによって、生きたまま燃え上がる施設の中に放り込まれた。
残りの55名は、学堂に関わる大人に殺された。
運よく殺されなかった66名も、この騒動後に孤児院の子ども達による捜索が行われ、自身が寿命を迎えるまで逃げ切れたのは僅かに2人。大体は子どもたちに見つかって殺されるか、恐怖に耐えきれず、自ら命を絶っていた。
この事件を皮切りに、人々は学堂長を悪と残虐の権化である魔女と呼び、子ども達を悪魔と呼ぶようになった。
同時に、魔女狩りに行った者が、
そこから何度か国内外問わず様々な争いを繰り広げ、最終的には、国家武力に対して唯一、同等以上の対抗手段を持つ集団であることを、非合法に認めさせた。
つまり、当時の国の官僚やらに、あくまで個人に与えた恐怖から抜け出す手段として、そう
我々はやろうと思えば、いつでも国を転覆させられる。
圧倒的な力の証明を携えながら、自ら巻いた首輪の手綱を、これ見よがしに個人のお前らに握らせてやろう。
しかし決して服従するのではない。
きちんと餌を与える限りは大人しくしといてやる。
まぁそれでも、いつ不機嫌になって噛みつくか分からないけど。
圧倒的な力を見せつけることで、無条件に陰に潜むことを認めさせる。そのために学堂は敢えて、公文を残さない非合法としての立場を強制的に選ばせた。
まさに強者の余裕であり、交渉を行った二代目学堂長の性格が、どれだけ捻じ曲がっているという、フォルミーカの成り立ちを学ぶ中でも指折りの有名エピソードである。
身内とはいえ、学堂のトップだった人物を、そんなに不敬に扱っていいのかとも思われるが、本人がそんな性格だからこそ、面白半分でそうさせているのかもしれない。
何より、そう教わったところで死んだ奴に会うことはないし、それは現在の大魔女についてもほぼ同じである。
ただの学徒が接触するなんてことは、ゼロと言い切れるほど有り得ないし、向こうから接触されることもない。
つまるところ、いらない心配であるのことに変わりはないのだ。
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