異世界転生して働きたくないから最強の魔法使いとなって自堕落な日々を過ごしていたら、なぜか国の守護者になってしまった〜楽して生きるために奮闘する自堕落魔女の物語〜
第42話 あまりにも荒唐無稽なアリスの話
第42話 あまりにも荒唐無稽なアリスの話
この王都を魔物から守るだけで、シャルンティエ王国が保有する魔導書を全て閲覧できる。
それはアリスにとって十分過ぎる報酬だった。
魔法について書かれた本――魔導書の中には、一般の魔法使い達に閲覧が禁止されている本がある。たとえ莫大な財産や地位と権力を持っていようとも、読むだけで罪人として裁かれてしまう本が存在している。
魔法で不自由なく自由気ままに過ごしていたアリスでも、その本を入手するのは非常に困難だった。
危険な魔法の術式や禁忌の魔法について記載された魔導書は、各国で閲覧禁止の禁書と扱われ、閲覧ができないよう国が厳重に保管し、管理している。
過去に彼女が禁書と出会う機会は何度かあった。しかし国が管理する魔導書の閲覧については、流石の彼女でも簡単に手が出せなかった。
財産や権力をなにひとつ持たないアリスでは、そもそも禁書を閲覧できる権利すら国から与えられない。
もし仮に国からアリスが禁書を強引にでも奪えば、もれなく悪行に手を染めた彼女の元にシャーロットが制裁に颯爽と現れるだろう。アリスも自ら望んで自分の親と殺し合う気など更々なかった。
その禁書の数々が、たった一仕事するだけで自由に読める。
もしかすれば魔法を知り尽くしたと思っていた自分にも、新たな魔法の知識を得られるかもしれない。
魔法に関する知識欲が誰よりもある自分の欲望がまた満たされるかもしれない。そう考えるだけで……自然とアリスの表情から笑みがこぼれていた。
「アリス殿。この国を守って頂き、心から感謝する」
アリスの承諾に、アルバルトが深々と頭を下げる。
彼の感謝を聞いて、呆れたアリスは肩を竦めながら思わず失笑していた。
「随分と気が早い言葉ね? その礼は私の仕事が終わってからでしょう?」
「なにを言うかと思えば……アリス殿。もうそなたの中には、この国を守り切る手はあるのだろう?」
アリスと同じように、頭を上げたアルバルトが跪きながら失笑する。
確信していると告げる彼に、アリスはクスクスと楽しそうに笑っていた。
「そんなの当然よ。手っ取り早く、簡単に、その全部を私が殺し尽くしてあげる」
そう言って、アリスが無垢な笑顔を見せる。
まるで子供のような笑顔で、平然とおぞましいことを口にするアリスに――自然とアルバルトの頬が引き攣っていた。
「……我々は、何をすれば良い?」
アリスを見上げるアルバルトが震えた声で問う。
そんな彼に、アリスは笑みを崩すことなく答えていた。
「アンタ達は何もしなくて良いわよ。強いて言えば……そうね。誰一人も、この王都から出さないこと。それさえしてくれれば、後は私で全部終わらせるわ」
「なに……?」
なにもするな。そう告げたアリスに、アルバルトが怪訝に眉を寄せた。
「冗談であろう? 混沌の魔女であるアリス殿でも、各方面から迫る魔物達を同時に防ぐ手はないのでは? アリス殿がひとつの方面を対応している間、他の方面は我々が足止めするのではないのか?」
アリスの戦力は格段に優れているが、たった一人で東西南北から王都に迫る魔物達を同時に殲滅することはできないだろう。
どれだけの力を持っていても、アリスも一人の人間である。同時に別々の場所から王都に迫る魔物達に対応することは、普通に考えてできるわけがない。
単純に考えれば、アリスが各方面の魔物達を順次殲滅していくのだと考えるだろう。
ひとつの方角にアリスが対応している間、他の方角を彼女は守れない。その間、誰も魔物達の足止めをしなければ易々と魔物が王都に侵入してしまう。
その足止めを自分達が請け負うのだとアルバルトは思っていた。まさかそれすらも必要ないとアリスが言うとは思いもしなかった。
「アンタ達の手助けなんて要らないわ」
「一体、アリス殿はなにを……?」
アリスの考えが全く見えず、アルバルトが困惑する。
そんな彼に、アリスは人差し指を上に向けていた。
「上から私がまとめて殺す。それだけよ」
「……上?」
自然とアルバルトの視線が上に向いた。
見上げれば、見えるのは青い空と白い雲のみ。
その景色を見て、何かを察したアルバルトは唖然と声を漏らした。
「まさか……空からだと?」
「えぇ、その方が周りがよく見えて楽だわ」
確かに空から王都を見下ろせば視界を邪魔する物もなく接近する魔物達を視認できるだろう。
飛べない人間が空に滞在し続けられるわけがないが、その問題もアリスなら容易に解決しているに違いない。
そう思えば、アルバルトもアリスの考えを察することができた。
「各方面から迫る魔物達を空から的確に攻撃するのがアリス殿の手なのか?」
「そんな手間なことしないわよ。もっと簡単にやるに決まってるじゃない」
しかしまたアリスから思いついた考えを否定されて、アルバルトの眉間に皺が寄った。
やはりアリスの話を聞いても、一向に彼女の考えが読めない。
アルバルトは困惑した表情を浮かべたまま、小さく頭を横に振っていた。
「どうやら無知な私には、アリス殿の考えは察せないようだ」
「別に難しいこと言ってないわよ?」
「それが余計に分からぬのだ。差し支えなければ、アリス殿はどのような方法で王都を守るのか聞かせてないだろうか?」
「簡単なことよ。私かシャーロットのどちらかが魔法障壁を展開して王都全体を覆って少しの間だけ魔物達を王都に入るのを防ぐ。その間に私が空からデカい魔法でまとめて魔物を殺すだけよ」
そう言ったアリスの表情は、とても平然としたものだった。
「……なんだと?」
アルバルトの口から呆けた声が漏れる。
そのあまりにも荒唐無稽なアリスの話に、アルバルトとアルディウスは揃って唖然と言葉を失っていた。
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