今日の友は明日の敵……でも友
「なんだよ、律希! お前に迷惑かけてる訳じゃないんだし、いいじゃん!!」
「お前、充分、迷惑なの」
「はぁ!? なんだよ、それ。迷惑かけてるとしたら、夏愛さんじゃん! お前じゃないんだから、いいじゃん!」
「俺も、夏愛の事、好きだから」
「!?」
俺は、思わず言葉が出なかった。何故なら、律希は滅茶苦茶モテて、つまりは、どっからどう見ても、イケメンで、勉強も出来て、でも、決して彼女を今まで作る事は無かった。中学から一緒の俺が言っているんだ。間違いない。変に噂になるのが面倒だと、女子と話す事すら、ほとんどなかった。まるで、男版、夏愛さん、みたいな男子だった。
「り……律希……お前……嘘だろ?だって、お前女に興味ないんじゃ……」
「おい! それじゃあ、まるで俺がゲイみたいじゃねぇか! お前は、俺と三年以上一緒にいて、俺の事ゲイだと思ってたのかよ……」
「だって……中学の時からものすげーモテてたのに、一度たりとも付き合ったり、告白を受けたりした事なかったじゃん! 俺、マジ、ゲイだと思ってた!!」
親友のゲイ疑惑が取っ払われ、律希が好きなのが、本当に、夏愛さんだとすれば、俺に勝ち目は何処にもない。
と言うのも、律希は、勉強も、学年でトップクラスだったし、夏愛さんと同じように、趣味は読書だった。それは、夏愛さんに合わせていたわけではない事は、中学の時からだから、分かる。それも、夏愛さんと同じように、小難しい本を好んで読んでいた。
「……じゃ……じゃあ、マジで、夏愛さんの事、好きなのか?」
「あぁ。悪いけど、お前の応援は出来ないし、邪魔もする。夏愛は、一生、お前んちの打ち上げ花火、見る事はないよ」
「……」
律希の、余りに男らしいライバル宣言に、俺は、早くも敗北宣言をしそうになった。だけど……。
「律希……俺は……負けない」
「え?」
「俺は……夏愛さんを……諦めない。お前が……お前も……夏愛さんを好きでも、誰を好きになるかを選ぶのは……夏愛さんだから。俺かも知れないし、お前かも知れないし、全然違うやつかも知れない。だから、その答えが出るまで、俺は……夏愛さんを……諦めない!!」
「……へー……お前がそんな男らしい事言うなんてな。思ってもみなかったよ。俺は、俺が夏愛を好きだって言えば、お前はあっさり諦めると思ったんだけどな……。滉惺、お前も男、って事か……」
「……昨日の友は……今日の敵って奴だな……」
「へー……お前にしてはうまいこと言うな。そんな言葉、浮かんでくる頭、持ってるとは思わなかったぜ」
「……どこまで馬鹿にすんだよ……律希……。俺は、本気で、諦めないからな!」
「あぁ……こちらこそ、よろしく」
律希は、焦り、不安に陥る俺とは対照的に、冷静で、平然としていた。それが、余計に頭にきた。……でも、本当は、頭は熱いのに、どこかで、律希には敵わない……そんな弱気な事を思う、自分が、また、許せなかった。
その日も、夏にしては珍しく、涼しい日だった。俺は、また、屋上で昼飯でも……と思い、階段へ向かおうとした。すると、一歩早く、律希が、階段を上がってゆく姿が、目に映った。俺は、思わず、静かに後を追った。もしかして、夏愛さんが、屋上にいるから、律希も、屋上に向かったのではないか……と。
その勘は、ぴたりと……当たらなかった。屋上にいたのは、律希、只一人だった。
(なんだ……律希一人か……心配するんじゃなかった……)
俺はそう思い、律希とは壁を隔てて、昼飯を食い始めた。
(今……もしも、夏愛さんが来たら、どうなるのかな? 修羅場? に……なる……のかな?)
そんな、何でもない想像をしながら、パンをモグモグと口に運んだ。すると――……、
バタン…。
この前の様に、また、静かに屋上の扉が閉まる音がした。
(まさか!!)
俺は、壁から身を覗かせて、その正体を明らかにしようとした。
(あ! やっぱり! 夏愛さんだ!)
夏愛さんは、屋上が好きらしかった。涼しい日……とも限らないのかな? と、ちょっと、俺は思った。
そして、ハッとした。俺が気が付いたのだ。律希が気が付かないはずがない。でも、壁が邪魔して、律希の様子が分からない。すると、また、悪戯に、風が吹いた。そして、フワッと夏愛さんのスカートが揺れる。そして、今日の夏愛さんは――……。
「へ――……。良い眺め……。白のレースか……」
「!?」
「どうも。一応、初めましてって言っとくわ。おんなしクラスの伊柳です。よろしく」
「……人のパンツ見といて、謝る前に自己紹介? サイテーだね……」
「別に……見たかった訳じゃないし……勝手に誰もいないと思い込んで、風が強い日に、そんな短いスカート履いておいて、それが捲れて、男が喜ばないとでも思ってる方がどうかしてない?」
「……伊柳……君、だっけ?貴方は……あの人とは大分タイプが違うみたいだね……」
「あの人? あぁ……滉惺ね。名前くらい、憶えてやってよ。アイツ、あれでも必死だから」
(律希……俺にあんな挑戦的な事言って置いて、やっぱり根は良い奴なんだよな……)
俺は、それくらいは分かっている。確かに、この前、言い合いはしたけれど、こんな風にかばわれては、心底ライバル視も出来ないし、心底嫌な奴だ、とも思えない。まったく、律希は、そう言う所は、いい奴なんだ。
「滉惺……か……名前は……格好良いんだね……」
(あ、ありがとう!! 親父!!)←滉惺と言う名を付けたのは、父親。
「でも……うざいもんはうざいし……」
(……俺……この場で投身自殺しても良いかな?)
「だろうね。夏愛はそう言うの、嫌いだって、オーラが丸出しだから、そう思ってただろう事は何となく想像できてたよ。でも、なんでそんなに一人が好きなの?」
「あの人にも……滉惺って人にも言ったけど……人が繋がりたがるのが分からない。私は要らないの。友達も、恋人も、……家族でさえね……」
「あぁ……親がめっちゃ喧嘩ばっかしてるとか?」
「……まぁ、近いね。とっくに離婚したけど。私が四歳の頃から険悪なムードになって、辛辣な言葉の応酬。子供……四歳に聞かせる言葉じゃないって……。お前は何人と寝たんだとか、愛人何人作れば気が済むんだとか……」
「へ――……、ファンキーなご両親だね」
「まぁね。でも……それ以上に腹が立ったのは……セックスだけはするんだよ……あんなに罵り合う癖に……。それが、四歳なりに、気色悪くて……、吐いたよ。毎晩。それ見て来た女が、恋なんて出来ると思う? 綺麗、なんてモノ、あると思えると思う?」
「ん――……、でも、まぁ、俺は夏愛の事、好きだけどね」
「「!」」
俺は、今さっき自己紹介をして、さらっと告白まで済ませる律希が、とんでもなく、恐ろしく、そして、格好よく思えた。やっぱり、モテる奴のすることは違う。どんな言動にも、冷静沈着な夏愛さんでも、さすがに驚いているように見えた。
「……伊柳君、きっと、貴方モテるんだろうね。なんだか、中学の時のモテっぷりが手に取るように分かるよ……」
「分かるかよ……そんなの。夏愛は俺の事、何にも知らねぇじゃん……」
「……だったら……それは、伊柳君も一緒でしょ?私のなんの、どこの部分を好きになったのか……、私には分からないよ……」
「中坊んとき、図書館で、夏愛を見かけた。俺の趣味と同じ本、読んでた。俺好みの、長い髪と、メイクばっちりで、真っ赤なグロス付けて……、こいつ、絶体なんか不満あんだろうな……って、すぐわかった」
「……伊柳君も……家庭に何かあったの?」
「どうだか」
「へぇ……人に一方的に話させておいて、自分の事は話さないんだ。それもズルいね」
「ズルいか……。まぁ、俺も、それなりにズルいけど、これだけは言う。俺は……ズルいけど、アイツはズルくないよ」
「アイツって……滉惺……って人の事?」
「あぁ。猿だけどね。でも、まぁ、応援する気はないけど、……良い奴ではあるよ……」
「……」
夏愛さんの表情は……変わらなかった。
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