幕間

魔女さん

「それでこんなところに魔女がいるのか?」


 村についた翌日、弥々は洞窟の中にあるジメジメとした家でもなく、森の奥深くにある隠れ小屋的な家でもなく、普通に村の日当たりがいい場所にある大きめの家の前に立っていた。


「あってるわよ。言っておくけど魔女は、魔女というなの医者だからね?」

「医者?」

「ええ。魔女狩りのせいで何故か魔女=悪魔の契約者という風になってしまったけれど、実際にはただの知恵者よ」

「へぇー」


 魔女とは玲香が言った通り恐れる存在ではない。というか、自宅の庭で薬草栽培したりするので周りの人からかなり有り難がられる存在だ。

 ただ地球では、教会が民衆の不満を逸らす為魔女狩りなんぞをやった為悪いイメージが定着してしまったのだ。

 ちなみに、魔女狩り実行の理由は様々な説があるが、知識層である魔女含めた存在たちを一掃する為という理由が有力だ。何故なら、神に祈れば病は治るという教会と、金を払えば直してくれる魔女。下手をすれば教会が窮地に立たされかねないし、神などいないと言う先導者が現れる可能性があったからだ。


「それじゃあ入るわよ」

「はい。よろしくお願いします」

「おう」


 魔女の家。その敷地に踏み込みそのまま玄関まで歩いて行く。そしてドアをノックする。


「はーい」


 扉を開けてでてきたのは妙齢の美女。


「なるほど。魔女は魔女でも美魔女か」

「黙りなさい」

「ぐはっ!?」


 鳩尾にクリーンヒット。弥々は崩れ落ちた。


「えっと。大丈夫かしら?」

「はい。大丈夫です。それにこのバカは元からここに置いてくつもりだったので」

「あら、そう。じゃあ中に入って」

「失礼します。ほらリディアさんも行くわよ」


 そして一人寂しく庭に放置される弥々。そこに魔女のペットらしき漆黒の鳥……カラスが降りてきた。


「……俺なんかしたか?」

「アホー。アホー」

「人生で一番イラっときた……」


(いや、動物相手に怒ったって仕方がない。……そうだ。このアホーを使って遊ぼう。うん、そうしよう)


 鳥と遊んだ気になることで、気分転換を計った弥々はカラスの「アホー」に合わせて「ドリー」と言おうと決める。(アホウドリ)


「来る――」


 カラスが鳴くために息を吸った。そして嘴を大きく開け


「カァー」「ドリー!!」


 沈黙。空気が氷点下にまで下がった。


「何で戻すんだよ!?」

「アホー!アホー!カ、カ、カァー!」

「お前わかってやってるな!?」


 動物はたまにこちらの言葉を分かってるんじゃないかという行動をする。


 §


「あの子面白いわね」

「あいつ。本当に……」

「可愛いと思います!」


 そして、弥々の一連の行動は窓から玲香たちに全部見られていた。

 その後、庭でカラスと追いかけっこを始めた弥々を見届けて、美魔女さんは液体の入った瓶やら、草やら本やらがごっちゃになっている机の前に座った。


「それじゃあ、要件を聞かせてもらおうかしら?」

「この子、2日前に男に“強姦”されたんです。なので一応体に異常がないかの診察を」

「あら、そうなの……頑張ったわね」

「ふぐっ!」


 リディアの簡単な身の上を聞いた美魔女は自分が乱暴を受けたわけでもないのに辛そうに顔を歪め、リディアをその豊満な胸にかき抱いた。ちなみにこの時玲香はその双丘を親の仇を見るような目で睨んでいたそうな。


「辛かったでしょう」

「あ、あの。私はもう大丈夫です」

「あらそんなわけないじゃな……結構大丈夫そうね」


 気丈に振る舞っているのだと思った美魔女はリディアと目を合わせて、我慢するんじゃないと叱ろうとし、暗い光がないことに戸惑った。


「んん?これはどういうこと?」

「私は助けてもらえましたから」

「……若いっていいわぁ。そう思わない玲香さん」

「“興味ない”ので」

「あら残念……一応幾つか薬作るから、明日取りに来てちょうだい?」

「ありがとうございました」


 そう言って外に出て行こうとする玲香。だが、リディアは何故か美魔女に止められてほとり残される。


「あの、何で私だけ?」

「んー。一つだけあなたにアドバイスをと思って」

「アドバイス、ですか?」


 いきなりのアドバイス発言。脈絡が無さすぎてリディアはキョトンとする。


「ええ。あなたに送るアドバイスは……対等でありなさい」

「対等、ですか?」

「ええ……あのヒサミくんもだけど特にレイカちゃんに対して、ね」

「玲香さんに対して……?」


 意味が分からず疑問符を浮かべまくってるリディア。それを見て微笑ましげに笑った美魔女は立ち上がり、今度こそリディア達を見送ろうとする。


「まぁ、頑張りなさい。若いからこそ失敗してもやり直せるんだから」

「はい?」

「ふふ。じゃあまた明日」


 そうして不思議な魔女との出会いは終わり


「かーどりー、だったかしら?」

「やめてぇ!」


 弥々はただ黒歴史を積み重ねたのだった。


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