千人長の胃が痛い

「シグルス団長。報告です」

「許可する」

「ダンギルに協力をしていたと思わしき人物らを一掃しました」

「そうか」

「はい。また、中には貴族もいたのですが……“ご病気でいらっしゃったようです”」

「……では、我々も帰還する」

「は!」


 §


 これは弥々達が軍に入ってから2週間程たったある日のこと。


「それで、あの三人はどうだ」

「んー。とっても優秀ですね」

「私が聞きたいのはそうじゃない」


 千人長たる私の私室に緑髪の女性、ミーティアがいた。


「ヒサミちゃんは才能に溢れています。メキメキと剣の扱いが上手くなっていっていますね……ただ、たまに組み手を行っているととても強い死臭が香ってきます。多分セスティちゃんの予想通り護衛として働いていたんだと思いますよ」


 ふむ、あの歳で護衛を任されるとはかなりの使い手なのか?いや、だが剣は確実に使えていなかった……室内専用の護衛として訓練を受けた?……わからないな


「そうか……レイカは?」


「レイカちゃんはちょっと異常ですね。一度教えたことは完璧に覚えていますし、次の授業までには全て習ったものを習得してくるんですー……それこそ魔法を使えなかったというよりも、ふりをしていた、という方が納得できるくらいには」

「ふり、か」

「それに魔力量も結構多い気がするんです。本人の資質と言われればそれでおしまいなんですが……魔物も人も殺した事がない、というのはちょっと違和感がありましたー」


 擬態、か。護衛対象を守るために周り実力を誤認させる技術……だが、なら何故自分の実力を見せるのだ?そのままゆっくり実力をつけているふうに見せればそれでいいはず……そこら辺はまだ子供、ということか?


「リディアは?」

「リディアちゃんは純粋ですねー。もう隊員全員から気に入られていますよー」


 そうなるとやはりリディアが令嬢、二人は護衛、という形でほぼ決まりか……ふぅ、よかった。これで安心で――


「ただ、リディアちゃんが男性を苦手としている……いえ、恐れているのは本当みたいです」

「……というと」

「ザックさんがヒサミちゃんの様子を見に来るんですが、その時表情が心なしか硬くなるんです……多分何かしらのトラウマを持っているのかと……」


 うそん……もうやだぁ。私千人長辞めたい……男にトラウマ持ってる令嬢って爆弾ものじゃない。嗚呼、これが高位貴族の嫌がらせ。やっぱり千人長なんてミーティアさんに押し付ければ良かった。あ、ザックでもいいか。


「ミーティアさん変わって」

「嫌ですよ。あと、名前」

「ミーティア変わって」

「だから嫌です……というか以前、別方向でも調べると言っていた思いますけど、其方の方から何かわからなかったんです?」


 ああ、身元を情報屋に探らせるやつね。


「ダメだった。もう、何も見つからない。どこに住んでいたーっていう情報も、誰かが偽造の通行証を渡したーっていう情報も何もなかった……こんなこと出来るの絶対に侯爵レベル。嗚呼、胃が痛い」

「……私何も聞いてないですから。それではー」


 ああ、ついにミーティアさんにも見捨てられた。


「胃薬あったかな」


 弥々達の行動と、シグルスさんがあの偽造の男を消したせいで、今日も深読みをしすぎ胃が痛いセスティ・フローレスなのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第二章は明後日

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