資金調達
「かった……」
ポツリと、目の前の大量の血を流しその命を奪ったダンギルを見つめながらそう呟いた。
「かった、助かった……守れた」
守れた。その言葉と同時に、二人の少女の存在を思い出した。
ダンギルをそのままに急いで二人の方へ向かう。
「玲香!」
まず、自分に近い場所にいた玲香に駆け寄った。
「よかった。怪我はしてないわよね?」
「あ、ああ。かすり傷程度しかない。それより玲香は大丈夫のか?歩けないみたいだけど」
「大丈夫よ。ただ腰が抜けてしまっただけ。時間が経てば治るわ」
「そうか……よかった」
ほぅ、と安堵の息を漏らし玲香と目が合えば笑い合った。
そして、件の少女は……そう思うも、自分が近づいて良いものかと思い逡巡を巡らす。だが、
「行ってあげなさいよ。多分もう大丈夫なはずよ……最後の雷は彼女がやったんだから」
「……そうなのか」
「最後の雷」おそらく決着の瞬間走った光の正体で、ダンギルの動きを鈍らせ弥々の命を救った命の恩人と言ってもいい物だ。
それを彼女が、自分を助ける為に使ってくれた。その事に弥々は目を丸くした。
だから恐る恐る玲香がどこからか持ってきていた服を着て、そばに腕輪を転がしている少女にしゃがんで目線を合わせ、話しかける。
「名前を聞いても、良いかな?」
「…リディアと言います」
小さいが透き通った綺麗な声が返ってきた。
「そっか。リディア、あの雷は君が?」
「はい」
「……ありがとう。俺を助けてくれて」
「い、いえ、その私も助けてもらいましたから」
弥々の礼に思わず畏まってしまうリディア。
けれども、弥々からすればあの時彼女に自分を助ける理由などなかったはずなのだ。
「あの時、助けを求める目を見て俺は……目を逸らした。君が酷い目に遭うことを知っていて、それを黙認した。君からすれば憎き相手で……君のお父さんとお母さんの仇だ」
確かに弥々はハゲ頭を殺し、ダンギルから命を賭けてリディアを守った。
けれども、あの時盗賊達と同じ側に“立った”という事実は、彼女の父が、母がその命を失ったという事実は決して消える事はない。
「……でもあなた、弥々さんは私を助けてくれました。私にとってはそれが全てで、弥々さんは私の命の恩人である事には変わりありません」
「だけど――」
「それに!……あ、あの時、たった一人で私を助けるなんて事は出来なかったって、わかってます。それどころか、今こうやって助けてもらえた事も奇跡なんです。それを、命を賭けて奇跡を起こしてくれた人を恨むなんて事、私はしたくありませんし、できません」
「……………」
沈黙する弥々。その肩にポンと手が置かれて振り返るとそこには玲香が。
「本人はこう言っているんだし、もういいんじゃないかしら?」
「でも……」
「本人が気にしていない以上、続きは謝罪じゃなくなるわよ」
「いや……うん。そうだな。わかったよ」
一応自分の中で折り合いを付けられたのか、弥々は納得した様子だ。
「それじゃあ、急ぐわよ」
「なにを?」
「移動を、よ。これだけの血が流れてるのよ?いつ動物……魔物がやってきてもおかしくないわ」
「ああ!そうか、なら急がなきゃ!」
そう、今ここはかなり血生臭い場所となっていた。理由としては、ダンギルの首、動脈を切った事、また10を超える人間を刃で殺害している事が挙げられる。
そして話せる程度にはなった様だが、まだリディアは歩くことが出来るほどではないし弥々もかなり消耗している。
こんな状況で、全く詳細のわからない生物である魔物に襲われるのはかなり致命的だ。故に急いでここから離れなければならないのだ。
「弥々はリディアさんを……リディアさん。弥々は男だけど背負われても大丈夫?」
「あ、多分、弥々さんなら大丈夫です」
「そう。なら良かったわ。……というわけでリディアさんをお願い」
「オーケー」
一応リディアが男に触れられても平気か確認をとった後弥々はリディアを背に背負い、いわゆるおんぶ状態になった。
むにゅ
(……何も考えてはいけない。感じてはいけない。無になれ――俺!)
自分のよく知る幼馴染みとは違い、リディアは大きめの山をお持ちだった為一瞬だけ煩悩が溢れ出てしまった。
「まずお金の回収に行くわ。着いてきて」
「御意」
しばらく森の中を無言で歩いて行く。そうして20分は経っただろうかという頃、目の前に小さな洞窟の入り口らしきものが見えてきた。
「ほぼ間違い無いと思うけど、あの中が収奪品を溜め込んでいる場所みたい」
「洞窟って……定番すぎない?」
「あら、定番っていうのは同じケースが多いから定番って呼ばれるのよ」
「ごもっともで」
薄く暗く、細い通路が曲がりくねっている洞窟の中を玲香が持ってきた松明の光を頼りに進む。
50mほど進んだだろうか。しばらくすると、先導する玲香の光が広く広がった空間を照らした。
「おお」
「……すごいですね」
「これは……あいつら、随分と派手に活動していたのね」
おおよそ17畳ほどの空間。そこには弓や矢を始めとして武具類、おそらく酒類が入っているであろう樽、馬車を解体する際に出てくる廃材、そして宝石やら貴金属やらの金品が大量に置かれていた。
「なぁ玲香。宝石、宝石貰っていこうぜ。宝石ならお金と違ってどこでも使えるだろ?」
「私もそれがいいと思います」
宝石を見て興奮した弥々がそんなことを言う。そして、
「ダメよ。ここにある宝石が全部本物かわからないし、それに私たちが宝石商に持って行っても二足三文。下手すれば窃盗犯だと思われて牢獄行きよ」
「いや、流石にそんなことは……」
「無いって言い切れるの?見窄らしい服を着た薄汚れた三人組の子供が大量の宝石を持ってきたら普通窃盗を疑うでしょう?」
「それは、確かに」
「それに私たちには裏で捌くためのツテもないわ。……まぁもしかしたら出来るかもしれないけれど、私はもう裏の人間とは関わりたく無いのよ」
玲香の説明は論理的であり反論の余地はなかった。それに近づきたく無い、というのは今回の件からくる後悔の影響だろう。それ故に一切の反論を弥々はいう事ができなかった。
「ほら、だからお金。特に銀貨と銅貨を狙うわよ。金貨を使う一般市民なんていないから」
「りょーかい」
「わ、わかりました」
「リディアは座って休んでなさい」
「え、でも……あ、わかりました」
硬貨を探すため、弥々はリディアの背を壁に預ける様にして地面に下ろす。
そしてリディアは当然かの様に二人を手伝おうとするが、玲香の無言の圧を受け結局隅で大人しくしている事にした。
「なんだこれ?」
しばらくあーでも無いこーでも無いと二人がやり合いながら金貨を探しているとたまたま弥々は、二匹の鳩の模様が施され周りに紅玉が散りばめられた一つの
そのため、適当にそこらへんに放っておこうとした、その時鋭い声が発せられる。
「それ!……見せて下さい」
「お、おう……」
「ありがとうございます」
弥々からロケットを受け取ったリディアは、それを両手で包む様に持ちそおっとその上に指を起き――指を発光させた。
すると、ロケットも強く紅蓮に輝いて光った
「これは母が大切に付けていた物なんです。魔力を流すと反応する魔道具で…それで……」
はらはらと涙を流すリディア。それを見て弥々はなんとも言えない気分になるが、嬉し涙を流す彼女を見て微笑むが溢れでた。
「……そうか。良かったな見つかって」
「はい……!」
そのとても嬉しそうにはにかむ彼女を見て弥々は、先ほど言われたことを思い出しながらも、同じく微笑ましそうにしている玲香に話しかける。
「なぁ玲香――」
「いいわよ?持っていっても」
「え?いいの!?」
「何よびっくりした様な顔をして。私が拾うなって言ったのは目立つからと、足がつくから。売らないで身につける分には全然問題ないわよ」
「良かったな、リディアさん!」
「はい!!」」
その後、ぎゅっとリディアが大切そうにロケットを胸に抱いてしまい、その朱色の光は見えなくなってしまった。
それを切っ掛けにして二人はまた悪銭の分別作業に戻った。
そして暫く経つと、弥々は立ち上がりぐうっと腰を伸ばしてリラックスをする。
「このくらいでいいかしら?」
「むしろやりすぎな気はするけどな」
まだ足りない。そんなふうなニュアンスの呟きを聞いた弥々はサッカーボールほどに膨らんだ袋を差してそう言った。
「そうかしら……うん。確かに十分ね」
それに対して、袋を揺らしジャラッという音と共にその重さを確認した玲香は、珍しくホクホク顔で硬貨回収作業の終了を告げた。
そしてここに来たもう一人にもこの大量の硬貨を見せてあげようと思い、そちらの方を見やると。
「よく寝ているわね」
「張り詰めていた緊張の位置が切れたんだろうな」
「むしろここまで起きていられたことの方が吃驚なんだもの。当然のことよ」
口の端から少し涎を垂らし熟睡するリディアの姿があった。
「それじゃあ、起こさない様に他の準備も進めておきましょうか」
「おう。木の実とかの保存食と、衣服、あと武器だったな」
「ええ」
食料は当然として、三人は……特に返り血で全身酷いことになっている弥々と、そこら辺に転がっていた服。つまり盗賊の誰かが着ていた服を着させられているリディアは早急に着替えを見つける必要があった。
また、今回の件で二人は嫌というほどこの世界に危険性を思い知った。その為サバイバルで便利という事もあるが、護身用に持っておこうという結論に至ったのだ。
「この服良くね?」
「成金趣味ね。却下」
「西洋剣かっけぇ」
「あなた短剣とかナイフの扱い上手よね。持つならこっち」
そして二人は前世、地球でそうした様に楽しげにウィンドショッピング(擬き)を始めた。
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