友達とは情報源である

「おぉ!!こりゃあ凄いな!」

「そうでしょう?」

「ああ!こんなもん見た事ないぜ!なぁ!お前ら!」

「「「はい!」」」


 そうやってペン型ライトを見て盛り上がっているのは、件の大男ダンギルとその他大勢の盗賊たちである。

 では弥々は一体何をやっているの言うと、それは――


「へぇーあんなもん作れんなら金には困らねぇんじゃねぇか?」

「ははっ、残念ながら雇い主があんな性格ですから貴族様に睨まれてしまって……色々大変なんですよ。スレイさん」

「あー、貴族様かぁ。あの方々は理不尽だからなぁ」


 ――あの油断ならなそうな痩せ身の男、スレイと酒を飲み交わしていた。(弥々は水)

 そんな弥々の心の内は周囲を驚かせて楽しそうにしている玲香とは対照的に、陰鬱とした物になっていた。


(ああ、もうやだ帰りたい。この人ちょっとした違和感も逃さないから全然気が抜けないし……玲香はスレイの信用を勝ち取れって言うけど、こういう頭脳戦って玲香の方が向いてるはずなんだけど……いや、まぁ主人魔術師っていう設定の玲香が頭目のダンギルを無視する訳にはいかないってのもわかるんだけどさぁ……)


「それにしても、魔法ってのは凄いよなぁ?俺たちでも出来るとはいえ、あんな細腕で金属を曲げられんだから」

「そうでしょうそうでしょ……ん?スレイさんも出来るんですか?」

「ん?そりゃそうだろ――」


 そう聞いた瞬間、弥々は普通に後悔した。自分だって力任せにやればスプーンくらい曲げられるのだから、荒事を生業として生きている盗賊たちなら当然出来るのだ。そんな当然のことを聞いてどうするんだと、そう思ったのだ――が、


「――俺たちは“人を殺してる”んだからさぁ」

「――え?」


 返ってきた言葉は、あまりにも予想外のものだった。


「それはどう言う――」

「ん?だから人を殺してんだから強くなるに決まっ……ああ!お前もしかしてまだ童貞かぁ!」

「は!?ど、どど童貞ちゃうわ!」

「へぇーその顔でぇ……じゃなくて、殺しの童貞だよ。やった事ないだろ人殺し」

「?ええ、まぁ……」


「人殺し」この世界に来てからウサギなどの小動物を殺したりなどして、日本にいた時よりは“死”と言う物を知った弥々だが、さすがにその言葉人を殺すは自分から余りにも遠い物であったためか、気の抜けた返事を返すことしか出来なかった。


「聖教会は『人を無闇に殺すな。殺すことによって得られる役など存在しない』って言って隠してるがぁよ、俺たちみたいな無法者やそれを殺す兵士たちの間では『人を殺せば、魔物を殺した時と同じように“強くなれる”』ってのは暗黙の了解なんだよ。お前さんも覚えとけ」

「なる、ほど……ありがとうございます」

「おう」


 その後思わず考え込んでしまった弥々を見て、何を思ったのかわからないがそれ以上話しかけることはなくスレイは立ち去ってき、結局この馬鹿騒ぎは盗賊たちの大半が酔い潰れるまで続いたのだった。



     §



「――人を……いえ生物を殺すと強くなれる、ねぇ」

「俺も信じられないけど、多分事実だ」

「それも話からすると、精神的に強くなるとかじゃなくて物理的に強くなるみたいね」

「ああ……」

「そんな話を聞いたのなら、まぁスレイを野放しにしたのも許してあげる」


 深夜。盗賊たちが寝静まった後、二人は声を潜めて話し合っていた。


「そっちは何かいい事あったか?」

「ええ。スレイが来る前にギリギリ金庫の場所の目星をつけられたわ。もう少し時間があれば確定させられたのだけど……」

「いや、本当にすまん。時間稼ぎも情報もたいして取れなくて」


 弥々は玲香から仲良くなれ、としか言われていなかったが本当は頭の回るスレイをダンギルから引き離すと言う目的もあったのだ。弥々はそれを遂行できなくて落ち込んでいるが、玲香からすれば初日で金庫の場所を聞き出せただけでもかなり順調であるし、何より「生物を殺せば強くなる」というこの世界独特の法則を知れたのだから満足であった為、弥々を攻める気など毛頭ない。……まぁ、最初ちょっと当たってしまったのは、少し欲が出ただけである。だがこれは仕方ない。人間だもの。


「責めてないから謝らないでいいわよ………そうね。明日からは私がスレイに近づくわ」

「なら俺はダンギル達バカどもの相手だな?」

「ええ。お願いできる?」

「任せろ。体育会系のノリは大の得意だ」


 そういってニカッと笑う弥々。それを見て玲香も、自分の役割を果たすためスレイ対策の立案の為頭を回し始め……二人は盗賊になってからの初めての朝を迎える。


     §


「それにしても最近、商人が通らなねぇな」

「はは……いつもはもっと通るんですか?スレイさん」

「ああ。二日に一遍は通るんだがなぁ。もう一週間も来てねぇ」

「でも、一週間くらいならまだ気にしるほどではない気がするのだけれど……」


 翌日、何故か弥々は相も変わらずスレイの相手を続けていた。


本当は弥々もあまり賢くないダンギルの相手をしていたかったのだが、何故かスレイに気に入られたらしく彼の方から近づいてきたのだ。その後、玲香も弥々を気遣って離れるためのフォローを行なっていたのだが、結局ここから離れられないでいた。


「なぁ、ヒカミ。酒飲もうぜぇ」

「だから俺は護衛だから飲めないんですって」

「チッ!じゃ、レモン様の方でもいいんだが?」

「遠慮するわ。わたしお酒あまり好きじゃないのよ」


今、スレイが呼んだ名前は弥々と玲香の偽名である。

それぞれ、頭の文字を残して偽名を作りあったのだ。……この名前を聞いた時、玲香の機嫌が悪くなったのは想像に難くないだろう。


「かぁー!一人で飲む酒は侘しいなぁ」

「はは、あ、お酒注ぐくらいはしますよ。男で申し訳ないですが」

「はっはっは!確かにきれぇな姉ちゃんには劣るわなぁ!」


スレイ“も”やはり酔っ払ってきているのか、いつもより気が大きくなっている様子が見て取れた。それ故巻き込まれた時は災難だと思ったが、今は有用な情報が……具体的には金の隠しどころがわかるかも知れないと、弥々は思い玲香と密かにアイコンタクトをした――その時


「おかしらぁ!おっきな馬車が通りますでぇ!」

「そりゃ本当か!」

「へい!」

「よぉし!お前急いで準備しろ!久しぶりの獲物だァ!」

「「「おぉ!!」」」


獲物がかかったというその知らせが来て10秒。突然の出来事に弥々達が目を白黒させることしか出来ないうちにとんでもない速さで盗賊行為の実行が決定してしまった。


「おぅ、お前らも着いてこい!盗賊としての見本をみしてやるぜぇ!」

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