二ヶ月後、今後の方針
ニヶ月後
「お婆さん。これってペリオ草じゃないですよね?」
「ええ。よく覚えてたね」
「まぁね。お婆さんの教えがいいからですよ」
「フーリさん。ここら辺に街道ってない?」
「ここから南にあるわよ」
「ありがと」
「うさぎ、罠にかかってたから血抜きしときました」
「あら、随分と上手くなったわねぇ。最初は腰が引けてて下手っぴだったのに」
「はは!頑張りましたから」
弥々達二人はは日常会話なら問題なくこなせる様になっていた。
たったの二ヶ月で!?と思うかもしれないが、実はそうでもない。
地球において、英語圏の人が他言語を習得するのにかかった時間のランキング。その一番下は600時間。
多いと感じるかもしれないが、玲香が受験生ばりに一日10時間言語の勉強をしたとしたらちょうど60日、二ヶ月だ。
でも、学習環境とか全然違うよな?という疑問も出てくるだろうがこのランキングは、英検一級orTOEIC900点台のレベルの習得なので、日常会話レベルであればもう少し難易度は落ちる。
それ故、元々頭が良かった玲香は日常会話から、有る程度のこの世界における常識、さらにもう一歩踏み込んだ言語習得にまで手を出し、弥々は日常会話は何とか、というレベルに達していた。
「それにしても、山小屋があって本当に良かった……」
「ええ。あの時はあんなこと言ったけど、これがなかったら私精神的にやられてたわ」
それでもって、今三人が居るのは山小屋である。フーリ婆さんの、という言葉がつくが。
実はあの時一人ポツンと座っていたのは腰をやってしまったかららしく、本来は山で木の実やら何やらをとって、山小屋の帰り、しばらく集めたらそれをもって村に帰るつもりだったんだとか。……やはり姨捨山はなかったのだ。それを知って敬老はやっぱり大事だよなと思った弥々であった。
そしていろいろあって二ヶ月が経った今、二人は新たな問題に直面していた。
「それで二人はこれからどうするんだい?」
「それがまだ決まってないんですよね」
「出来れば私の村に連れいってやりたいんだけどねぇ……何と言っても閉鎖的な村じゃから一時的ならまだしも長期滞在は無理でねぇ……困ったもんだよ。」
「いえいえ、言葉を教えてもらえただけでも十分ですよ」
そう、言語を習得した今、これからの指針が必要になったのだがそれが無いのだ。
その後夕食を食べ体を拭いた後、フーリ婆さん眠ったことを確認した二人は額を突き合わせ相談を始めた。
「それでこれからどうする?」
「まず、当面の目標は街に入り市民権を獲得すること」
「そして何でもいいから食い扶持を手に入れる、つまり職につくこと、だよな?」
「ええ、でもここで問題になるのは私達が無戸籍者だってこと」
無戸籍者。つまりどの国の人間でも無いという事なのだが、異世界かやってきた二人がそうであるのは当たり前である。そして二人は戸籍を持たない……というか何処にいっても余所者である為、都市の通行の為に必要な“通行証”を購入することが出来ないのだ。(身分証明証は存在しない)
「それに、そもそも通行証を買うためのお金がないわ」
「金、か……こういう時テンプレなら異世界産のものを高値で売り払うんだけど」
「足元見られて二束三文、または殺して全部奪われるかもね」
「まじ中世物騒すぎん?俺のイメージガタガタなんだけど」
「諦めて。これが現実よ」
ライトノベルじゃ、時計やら制服やらを見せて商人に高値で買ってもらいついでにコネ作るっていうのがテンプレではあるけれども、現実は違う。
現代のように司法の眼が行き届かない世界で、17の子供が明らかに高価なものを持っていてもしかしたらもっと持っているかもしれない。ついでにいえば、玲香はいつも一緒にいる弥々でも偶に見惚れるくらいに美人だし、自分も整った方だと自認している。
もし、そんな二人組がいたら身ぐるみ剥いで奴隷に落とすのが普通であろう。
「じゃあどうするよ。婆さんの村に行くのは遠回しに断られてるし、正直手段がないぜ?」
「そう、ね……」
しばらくして、時間がたち少し眠くなり始めていた弥々に玲香が話しかける
「……ねぇ、弥々」
「……なに?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……私に命預けられる?」
「…?預けられるぞ?」
「言ったわね?」
「玲香を信用しないで誰を信用するってんだ」
「そう……それじゃあ――」
躊躇なく言い切った
「――“盗賊”になりましょう?」
「なんで!?」
――とても物騒な事を言い放った。
§
三日後。弥々と玲香は学校指定のカバンにできる限りの木の実を詰め込んで出立の準備を整え、フーリ婆さんもまた村に帰る準備を終えていた。
「これでお別れだねぇ」
「本当にお世話になりました」
「言葉も教えてもらって、本当に助かりました」
「いいのよぉ。私は東方の事を教えてもらって楽しかったし、いろいろ手伝ってくれたから逆に私の方が助かったわよ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「それじゃあねぇ」と、最後の挨拶を交わした後、フーリ婆さんと二人はそれぞれ真逆の方向に山を降りて行った。
「それでこっちで合ってるのか?」
「ええ。フーリさんが言っていたことが正しいのなら、こっちに歩いていれば大きめの街道が存在するみたい」
「おーけー。ならとりあえずそこまで無事に辿り着かなきゃな」
そうして二人は本格的に異世界での活動を開始した。
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