第25話 先制したらスライムだった件
「なぁ、あれって......」
どれくらいの距離を歩いただろうか。高原の丘の上に黒い禍々しく光る不気味な魔物の姿が目に入った。風花の方に目をやると、風花は後ろを向いていつでも逃げられる体制に入っていた。恐ろしく速い判断。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「あー、スライムだね」
「こっちに向かってきてるんですけど?」
魔子さんは杖を構えて臨戦態勢に入る。
「こりゃ、無理だね。戦闘になるよ」
「どうしてあなたそんなに冷静なのよ」
魔子さんは声を荒げる。その間にもスライムはこちらに向かって、じわじわと迫ってきているのだった。
「はぁ……やるしかないようね」
魔子さんは溜め息を付いて、詠唱を始めた。
「炎よ。仇なす者の身を焦がせ」
魔子さんが詠唱を終えると、スライムの体の一回りは大きい巨大な火の玉がスライムに向かって放たれた。
「凄っ……」
風花は驚いた表情で詠唱した火の玉を見つめている。
グギギギギ……
スライムは体を変形させて火の玉を受け止めた。体液を蒸発させつつ、こちらへとじわじわとにじり寄ってきている。
「スライムの弱点は炎。のはずなんだけど……」
スライムの動きは止まらない。魔子さんはスライムの生命力に驚愕している。
「俺がスライムを食い止める! 魔子さんは詠唱を!」
「わかったわ! 前、任せるわよ!」
剣を抜いてスライムに飛びかかると。グニャリとした感触があった。どうやら、スライムは変形をして刃を受け止めたらしい。刃はスライムの体の中で動かすことができなくなった。
「炎の精霊サラマンドラよ……」
魔子さんは詠唱を始めている。
「これデジャヴってやつですよね」
「避けてっ!」
後ろからとんでもない熱風を感じ、とっさに左へと体を投げる。
グギィイイイ!
魔子さんの放った大きな火の玉はスライムに直撃し、スライムの身体は溶け出し、みるみると蒸発していく。
ギギギギギギギギ!
断末魔を上げてスライムが蒸発すると、勇者の剣がカランと音を立てて地面に落ちた。
「やっぱコイツ強ぇわ。強い。命いくつあっても足りねえわ」
俺は土だらけになりながら、落ちた勇者の剣を拾い上げた。
「熱っ! 火力えぐすぎますって!」
そして、あまりの熱さに剣を落としたのだった。
「手加減できるような相手じゃないのよ」
魔子さんは続けて、
「でも、倒せてよかった」
と言ってニコっと笑った。
「完全詠唱……魔子さん大魔法使いだったんだ……」
そして、風花は魔子さんをキラキラとした目で見つめて、駆け寄るのだった。
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