第24話 高原に潜むアメーバ
「今回の討伐依頼についてなんだけど、風花は討伐依頼、受けたことあるのか?」
宿屋を出て目的地へ向かう途中、俺は風花に尋ねた。
「うん。ないよ」
風花は即答する。
「雲行きが怪しくなってきたな」
東の高原に行けと言われたものの、この地域について詳しいのは風花だけだ。
「でも、東の高原には行った事あるよ。ここを真っ直ぐ行くと門番がいるから、抜けた先を真っ直ぐ進むと着くよ」
風花は門の方角を指さして言った
「そこに黒狼がいるってわけね」
魔子さんは感心した表情で言った。
「うん。でも、危険生物もいるから注意しないといけないよ」
と言った。
「危険生物ってのは?」
「えっとね。黒いブヨブヨしたやつ。そう、スライム!」
風花は思い出したようにそう言ったのだった。
「スライムですって!?」
スライムと聞いて魔子さんが不機嫌そうな表情で言った。
「うん。スライムだよ」
「ちょっと待って。俺、スライムが出るならこの依頼、受けてないんだけど」
「東の高原はスライムが出現する危険地帯だよ」
「同時に二体出現したら、全力で逃げるよ。俺」
依頼で死ぬのは勘弁したい。命あっての物種だ。
「基本的にスライムは単独行動だよ」
風花はそう言って、続ける。
「でも、この依頼、みんな受けたがらないんだ」
「そりゃそうだよな」
この大陸のスライム相手にした魔物のなかでもダントツで凶悪だ。
「あんな化け物相手にしてたら命がいくつあっても足りないわよ」
魔子さんが口を挟む。
「んー。ピューって逃げればいいんだよ。ピューって」
風花は余裕の笑みを浮かべている。
「あいたっ!」
瞬間、その笑顔が歪む。魔子さんが無言で風花の頭を杖でコツンと小突いたのだ。
「あなたはいいけどね。私はあなた程、速くないの? わかる?」
「ふぇえーん!」
風花は目をうるうるさせながら俺の方へ駆け寄った。
「まあまあ、魔子さん落ち着いて。何かあったら俺がなんとかするから」
とは言ったものの、なんとかなる気がしない。もう、討伐依頼失敗でいいかな。俺、この後スライム見かけたら、どんな顔していいかわからないよ。
足取りを進めると、大きな鉄の門が見えてきた。
「東の高原へいかれるのですか!?」
黒髭を蓄えた初老の門番は、驚いた表情で両手を合わせて祈り始めた。ただ事じゃない様子だ。
「か、神のご加護があらんことをっ。あらんことを」
門を通って門が閉まるのを確認して俺は言った。
「なぁ。俺達はめられたんじゃないか?」
慌て方が明らかに普通じゃなかったが、果たしてこの先足を進めていいのだろうか。
「あなたが二つ返事で受けたんでしょ?」
「そうなんだけどさ。危険地帯だとは聞いてないよ」
「この地帯は風花にとって庭みたいなもんだし、正面から戦わなければ大丈夫だよ」
そう言って風花はニコッと笑った。頼もしいような頼もしくないような。
「あなた、戦闘経験は?」
「風花、戦闘経験ないよ」
風花はニコっと笑う。それを見て、魔子さんはため息をついたのだった。
「スライムに出会わないことを祈ろう」
こうして俺達は東の高原地帯へと足を進め始めたのだった。
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