第23話 ベンサイxトxキュウサイ


 宿屋の主人の元へ向かうと、魔子さんが入り口で待っていた。


「あっ、魔子さん」


「……」


 俺が話しかけると、魔子さんはそっぽを向いた。


「あなたにそんな趣味があったなんてね……」


「誤解なんだよ。魔子さん」


「誤解ですって?」


「うん。風花ちゃんもほら、言ってあげて」


 俺は風花に助けを求めると、


「うん。私……遊人さんと一緒に寝たんだよ」


 ベッドをただ譲っただけなのに、何か誤解をされる方向に事が進んでいるような……


「は? なんですって? もう一回言ってくれる?」


 魔子さんは鬼のような形相で風花ちゃんを睨んで言った。


「違うんだよ、魔子さん。部屋を追い出されたって聞いたから、俺はベッドを譲っただけだよ」


「追い出されたですって?」


 魔子さんが驚いたような表情をしている。風花ちゃんの方を見るとバツが悪そうに目をそらしたのだった。


「俺はそう聞いたんだけど……?」


「真夜中に何度も起こされたのよ。おかげで寝不足よ……」


「えっと、明日に備えて武器の整備してたんだよね」


 そう言って風花の方を見ると、コクコクと頷いた。


「はぁ……もう、少し静かにできなかったのかしら」


 魔子さんは風花の方を見ると、風花は俺の後ろへとさっと姿を隠す。


「もう怒ってないわよ」


 風花はホッとして、俺の隣、定位置へと戻る。


「あのね。風花、悪くないんだよ」


 風花がそう言うと、ギロリと魔子さんは風花を睨んで、


「あなた、反省してる?」

 

 と言った。風花の方を見ると、そこに姿はなく、また、俺の後ろに回り込んでいた。ちょっとまって。風花ちゃん。魔子さん顔色伺いながら、ちょこちょこ動くのやめて。


「風花、悪い事してないもん」


 風花はほっぺたを膨らませて不満そうな顔をして言った。


「あなた仏の顔も三度までよ? 」

 

 魔子さんはムスッとした表情で言った。


「仏の顔ってどんな顔?」

 

 風花はキョトンとした顔して言った。


「物の例えだよ風花ちゃん。仏は優しい顔をしてるんだよ」


 俺が優しく伝えると、

 

「全然仏じゃないよ」

 

 風花の追撃。そこで、ぷっつーんと魔子さんの何かが切れたような音がした。そんな気がした。


「あなたねぇ! 何度も深夜に起こされたら誰だって怒るわよ!」


 魔子さんは鬼の形相で風花に掴みかからん勢いで怒鳴ったのだった。


「まぁまぁ。魔子さん落ち着いて。風花、確かに整備するのは悪くないんだけど、時間がまずかった。謝ろう」


 流石に俺も同じ状況だったら怒らない自信がない。同じ部屋にした俺がそもそもの元凶だけど、風花ちゃんが謝ったら解決する話だ。


「風花悪い?」


「うん。だから謝ろう。魔子さんごめんないって。俺からも謝るよ。きちんと風花に説明しなかった俺にも否がある。魔子さんごめん」


 俺は深々と頭を下げる。それに続いて、


「ごめんなさい」


「そこまで怒ってないわよ。ほら、頭上げなさいよ」


風花も謝り、無事仲直りを果たしたのだった。


―後半に続く

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