第18話 討伐依頼と盗賊少女

「良いお姉さんだね」


「どこがよ」


 魔子さんはそう言って渡された依頼書に目を通した。


「でも、たしかにこの討伐依頼は良いかもしれないわね」


 依頼書には<東の高原に生息する黒狼の討伐>と記載されていた。


「だね」


「なら、決まりね。行きましょう」


 そして、俺たちは酒場を出た。


 その瞬間、ドンとフードを被った女性が魔子さんにぶつかった。


「ちょっと気をつけなさいよね!」


「っ……」


 魔子さんが強い語気でそう言うと女性は頭を下げ、スタスタと酒場奥の路地へと姿を消した。


「あれ、おかしいわね……」


 魔子さんはポケットを探っている。


「ない。ない!」


「どうしたの?」


「硬貨の入った袋がないのよ!」


「心当たりは?」


「さっきの女の子ね。追うわよ!」


 こうして、俺は魔子さんと一緒に酒場奥の路地へと駆け出したのだった。


「どっちだ?」


 裏路地は道が左右に分かれていた。 


「魔子さん。右だ」


 俺はそう言って路地を人影の見えた右へと曲がった。


「ちょっと、あなた止まりなさい!」


 そう言って女性を呼び止めると、女性は振り向いて言った。


「私に何の用ですか?」


「あなた、私のお金を盗んだでしょ」


「え?」


「とぼけても無駄よ。ちゃんと私の目を見て答えなさい」


 魔子さんはそう言うと、女性のフードを脱がせた。


「あっ……」


 フードを脱がせると、青髪のショートボブな美少女の姿が顕になった。


「ひゃっ……」


 少女は恥ずかしがって目をそらすと、魔子さんは少女の体を弄り始めた。


「ほら、じっとしてなさい」


 魔子さんはそう言って、少女の体をごそごそと弄っている。


「ひゃんっ……」


「見つけたわよ」


 魔子さんが硬貨の入った袋を少女のポケットから取り出した。


「あ、あのっ……ご、ごめんなさい」 


 少女は怯えた表情で謝罪した。


「謝れば何でも許してもらえると思ったら大間違いよ」


「まあまあ。魔子さん相手はこどもだし……」


 俺が間に割って入ると、魔子さんは少し考えて言った。


「そうね。で、どうしてあなたこんな事をしたの?」


 少女は俯いて潤んだ目をしている。


「ごめんなさい……私、お金がどうしても必要で……」


「はぁ……」


 魔子さんはため息をつくと、袋から硬貨を取り出して、少女に差し出した。


「これで、美味しいものでも食べなさい。もう悪いことしちゃダメよ」


「あ、ありがとうございます……」


 少女は深く深くお辞儀をして、硬貨を受け取った。


「この御恩、忘れませんっ!」


 少女はそう言ってフードを被り直して振り返り、路地裏へと駆けていった。


「私ってつくづくお人好しよね……」


「魔子さんらしくて良いと思うよ」


「それ褒めてるつもり?」


 そんなやり取りをしていて、ふと俺は気づいた。


「魔子さん。そういえば、杖どうしたの?」


「あっ……あの小娘ーっ!」


「はぁ……」


 一難去ってまた一難である。


「杖! 杖がないと依頼の討伐に行けないじゃない!」


「まあまあ、魔子さん落ち着いて」


「落ち着いてなんていられないわ。剣だけでどうにかなる依頼じゃないわよ」


 うん。それは正論。盾欲しい。けど、買うお金がない。


「一回、酒場に戻って情報を集めよう」


 こうして、俺達は青髪の盗人少女を探すべく情報を集める事となったのだった。

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