第9話 ウォッカ村

「ようこそ。ウォッカ村へ。照道さん。そちらのお方は?」


 村に入ると、初老の男性から声をかけられた。どうやら、照道と面識があるらしい。


「ああ。こちらの二人は勇者の末裔だ」


「……なんと……神の御加護があらんことを」


 村人は羨望の眼差してこちらを見て言った。


「神の御加護のあらん事を」


 照道はそう返すと、続ける。


「僕の祖父が協会の神父をやっていてね。顔が効くんだ」


 照道はそう言うと、続けて言った。


「祖父って預言者じゃなかったのか?」


 俺は照道に向かって疑問を投げかける。


「ああ。やめたのさ。自身の予言が怖くなったらしい」


「怖くなった?」


「ああ。僕の祖母は名のある預言者だった。ただ、不幸にも予言が災いばかりでね。ある時、予言が災いを呼び寄せている! と言い出して、全部投げ出して予言をやめたのさ。それ以来協会に通い詰めてすぐに神父になったよ」


 そう言うと、照道はため息をついた。


「当たるに越したことはないと思うのだけれど、難儀なものね」


 魔子さんが口を挟んだ。


「僕の予言は幸にも不幸にも外れる事があるから、なんとか続けているよ」


「予言ってのは悪い事を回避するためにあるんだから、悪い予言が多いのは必然的だと思うんだがそうでもないのか?」


 照道に対して俺は疑問を投げかける。


「良い予言もあるさ。だけど、悪い予言が続くような状況になると、気が滅入るよ」


 そう言って照道はつづける。


「僕の祖父のやっている協会がここだ」


 話しているうちに石造りの大きな協会の前に着いていた。


「へえ。立派なものね」


 魔子さんは感心している。


「民衆のお金で建てられたものだよ。うちの祖父は予言者の血族の中でも本物の預言者だった。なんせ、予言を一度も外したことがないからね。そのおかげでお金に困ることはなかった。けれど、いつしか民衆から悪魔だ。死神の遣いだ。と言われるようになってね。塞ぎ込むようになってしまったんだ。苦労は絶えなかったよ」


 そういうと、照道は協会の扉の前に立って言った


「この扉を開く前に、先に謝っておくよ。すまない」


 照道はそう言うと扉に手をかけた。


「ちょっとまて」


 俺は照道の手を掴んで、静止する。


「ん。なんだい?」


「この先、謝るような事が起きるって事だよな」


 俺は照道を静止すると、魔子さんがいった。


「もしかして……お父さんと仲悪いの?」


 魔子さん。直球すぎるし、多分違う。


「そう見えるかい? 父親とは上手くやってるよ」


ジリジリジリ……


 魔子さん。照道が変なタイミングで謝ってから、明らかにちょっとずつ扉から距離とってるんだよな……父親が闇落ちしてて襲ってくる可能性もゼロじゃないから多分、正解。


「どうしたんだい。二人とも?」


 お前が変なタイミングで謝るから警戒してんだよ。わかれ。天才僧侶の名が泣くぞ。


「協会の父親がどうであれ、照道が謝ることはないと思うけどな。魔物使役してけしかけてくるとかなら話は別だけど」


「当たらずとも遠からずだ」


 えっ。冗談だったんだけど、魔物使役してんの? 悪魔超えて死神超えて魔王。まさかの協会が魔王城。ホーリーシット!


「僕は祖父からの依頼で君たちをこの場所に連れてきんだ」


 そういうと、照道は教会の扉を開けた。

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