第7話 天才僧侶は語らない

 沈黙。とても長い時間が流れたかのように思えた。続けて、魔子さんは口を開いた。


「あなたの身のこなし、とても僧侶とは思えないんだけど……」


 天才についてはスルーして魔子さんは素朴な疑問を投げかける。


「ああ、その事か。僕には未来が見えるんだ」


「はぁ?」


 呆れたかのような表情で彼女は照道を見て言った。


「ふざけないでくれる? 私達は命を落としかけてるのよ」


「ふざけてなどいない。事実を述べたまでだ」


 照道は真面目な表情で言った。


「じゃあ、あなた私の呪文……」


「風の上級呪文。正式名称は正確には詠唱時間を掛ける程に威力が増す賢者が使う呪文だ」


「な……ななな……なんであなたそこまで……」


 魔子さんは明らかに動揺している。


「僕は僧侶だが、僕の先祖は占い師だ。いや、預言者と呼ぶべきか」


「すごいよ照道。だとしたら君がいたら怖いものなしだ」


「そこまで便利な能力ではないよ。必ず当たるわけじゃない」


 照道は謙遜した様子で言って続ける。


「良ければ君たちの旅のお供をしたい」


「断る理由はないよ。君がいたら百人力だ」


 魔子さんは顔を真っ赤にして何とも言えない表情をしている。


「あれ? 魔子さん? どうかした?」


「仕方ないわね……」


「よし、それじゃあ出口を目指そうか」


 俺がそう言うと、照道は言った。


「誰だって失敗はあるさ。恥じることはない」


 何の事だ? そう思った数秒後、魔子さんは石に躓いて転んだ。


「きゃっ!」


 スカートがめくれ、純白のパンツが顕になった。


「って、あなたもっとはやく教えなさいよっ!」


「純白か。お嬢さん。未来を変える事にはリスクが伴うんだ」


「純白って……あなた……覚えておきなさい!」


 魔子さんは顔を真っ赤にして怒った表情で先に進んでいく。


「純白のお嬢さん。バタフライ効果ってのを知ってるかい。小さな未来を変えると、未来の全てに影響する事がある。だから、未来は極力変えないほうがいいんだ」


「あなた、純白っていうのやめなさい。殺すわよ」


 ギロリと魔子さんがにらみつける。


「…………」


 照道はそれ以降、洞窟を抜けるまでずっと。仏のように押し黙ったままだった。何か恐ろしい未来が見えたのだろうか。俺にはわからなかった。

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