第3話 破魔魔子と賢者の杖

「そういえばその派手な杖だけど、その杖は何処で手に入れたんだ?」


「この杖? お父様の形見なの。お父様はかつて有名な賢者で疾風の隼って呼ばれていたらしいわ」


「うん。なんか全部納得した」


 魔法の威力。魔子さんがお供に選ばれたこと。そして、父親の形見である賢者の杖。うん。魔子、やっぱその杖反則だ。


「それってさ魔王の城の手前とか終盤に手に入る装備なんじゃ……」


「そうなのかなぁ。わかんない」


 わかんない。じゃねえよ。こっちは棒きれだぞ。オレも形見の剣欲しかったよ。ふざけるなよ。オレの父親漁師だよ。しかも生きてるし。いやそれは喜ぶとこか。畜生。


「そっかー。形見だもんなー。わかんないよなー」


 俺はぶっきらぼうに返した。そうして魔子さんと会話をしながら、草原を歩いていると奇妙な洞窟が見えてきた。


「ここに一体何があるんだろうな」


「さぁ。想像がつかないわね」


 俺が話しかけると魔子さんはすぐに答える。と、同時に洞窟の前に多数の青い塊のが見えた。


「スライムの群れだ!」


 俺がそう言うと、同時に彼女の口から素早く呪文のような言葉が発せられた。その瞬間―――


グシャリ……グシャリ……


目の前のスライムの群れの内の2匹の胴体が奇妙な音を立てて真っ二つに裂けた。一瞬の出来事だった。


 生き残ったスライムは2匹。


「ごめん。仕留め損ねちゃったー」


「ピッ……ピィー」


 残ったスライムはお互いの顔を見合わせると、背中を向けて明後日の方向へと逃げて行った。


「あれっ逃げちゃった」


逃げるスライムを眺めながら魔子さんは言った。


「みたいだね」


「なんで逃げちゃったんだろうね。不思議だね」


「いやいやいや。魔子さん。グシャッって音がして、隣にいた仲間が一瞬で真っ二つにされたら普通逃げるでしょ。未だピクピクしてる上にゼリーみたいな物質が飛び散ってるし、その上、魔子さん仕留め損ねたぁ。って言ってるし、むしろこれスライム逃げて正解」


 うん。逃げてよかった。うん。


「でも2匹しか仕留められなかったよ?」


「いやいやいや。魔子さんの仕留め方がもう一瞬の殺戮。残酷かつ残忍な見えない刃による切断。それに加え、何が起こったかわからない完全に初見殺しの呪文」


 というか、俺ですら未だに何が起こってスライムが切断されたのかが 理解できない。謎。よく見たら切断面複数あるし、恐怖そのもの。俺自身怖い。俺も逃げたい。正直、魔子さん怖い。


「そういえば、遊人くんは武器を使った特技とか呪文とか使えないの?」


 魔子さんは杖で僕を指して言った。


「ちょっと魔子さん。その杖で俺の方を指すのやめて」


 怖い怖い怖い。一瞬、死が頭をよぎったし、その口が素早く動く、動く前にその杖へし折ろうかと思った自分も怖い。


「何も使えそうにないよ」


 そう言って、スライムをよく見ると、真っ二つではなく三枚におろされていた。


「そういえば、魔子さん。呪文の威力って調節できる?」


 こんな残忍な殺し方で魔物倒していくのは精神的に無理だ。魔子さんも一方的な殺戮は望んでいないだろう。


「うん。やってるんだけどこれが最低の威力かなぁ」


 返答は想定していた中でも最悪の返答だった。


「え、これで最低?」


「うん。だいぶ調整してるよ」


 いや、怖すぎるんですけど、その答え怖すぎるんですけど。魔子さん本気出したら魔物と一緒に俺もスパッと逝きそうなんですけど、そうならない保証無いんですけど!

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