第39話 その悪意を断つ
九頭田フトシ……この男は。
身勝手で。
理不尽で。
デタラメで。
そんな悪意でリンネさんを、ミクルを……多くの
許してはならないッ!
「ダンジョンに潜ったからには
俺は
「だけど、それでも。あなたのようなクズの身勝手な理由で……傷つけられていいはずがない」
込み上げる怒りのままに俺はスキルを発動した。
「魔眼バロル――
《魔眼バロルキタキタキター!!》
《相変わらずダッセェスキル名wwww》
《だ が そ れ が い い》
《公開処刑の時間だー!》
《やっちゃえクロウ!!》
《コイツにやられたダイバーの仇をとってくれクロウ!!》
「あなたのその腐りきった悪意、私が今から断ち切ります」
「やれるもんならやってみろおッ!」
九頭田が再び突っ込んできた。
両手のかぎ爪による連続攻撃。
スキルで強化されたスピードは脅威。
だけど動きそのものは単調だ。攻撃の軌道は容易に予測できる。
俺はその攻撃のすべてを捌ききった。
「クソ……! チョコマカと……!」
「どうしました? 神に与えられた力はその程度なんですか? そんなヌルい攻撃じゃ百回繰り返しても私の身体に傷ひとつつけられませんよ」
「ぼ、僕ちんをバカにするな! 僕ちんの本気はこれからなんだッ!!」
「じゃあはやく本気を出すことをおすすめします。あなたを殺していいなら戦いはもう終わってる」
「な、なに!?」
俺はそう言うや否や、九頭田の懐に潜り込む。
九頭田が迎撃のために振り下ろしてきた攻撃を、ククリの峰部分で弾き返した。
「うばぁッ!」
情けない声を上げながら
「こんな風に」
あとほんの数センチ押し込めば、頸動脈を切断して致命傷を与えられる距離。九頭田の命を奪うギリギリの位置で刃を止めた。
「だけど、私は人を殺したくない。お前みたいなクズでも。お前みたいなクズと違って」
「うばば、ぶひィッ……!」
九頭田の眼球がグルグルと動き回り、冷や汗がだらりだらりと垂れていった。
《かっこよすぎ濡れた》
《魅せプレイで戦う配信者の鑑》
《まーそうだよなクロウが本気出したら決着は一瞬よな》
《九頭田フトシくん勝ち目ないから降参したほうがいいよ^^》
《ぶっちゃけこんなクズ殺したほうが世の中のためだと思うけど》
「バカな……! こんなはずじゃ……! 僕ちんが宿したモンスターはSランクだぞ……! それがなんで……!? どうじでェ!?」
「いくらスキルが強力でも、素の実力が低かったらどうしようもないでしょう? ハッキリ言ってあなたの戦闘技術は
「うるさいうるさいうるさい! 上から目線で僕ちんをバカにするな……! こんなもんじゃないんだ。僕ちんの力はッ!」
「そうですか」
俺はククリを九頭田の喉元から離した。
途端に九頭田は「ぶひぃ」と悲鳴にも似た声を上げながら後ずさる。
「だったら全力を見せてくれますか?」
「な、なんだとぉ……!?」
「サービスです。私はここから一歩も動かないから、神の力とやらを見せてださい」
俺は両手を広げて九頭田を挑発する。
「見下しやがって……! 後悔しろよォ!?」
挑発にのった九頭田はガバッ口を大きく開けた。
「ゴオオオオオオオオッ!」
ビリビリと大気が震え、その口元にみるみるうちに巨大な火球が形成されていく。
《火炎ブレスだ!》
《これが奥の手?》
《さすがにこんな狭いところで使われたらやばくない?》
《まぁクロウのことだから大丈夫だろうけど》
《どう対処するんや?》
「こう対処します」
俺はコメントに一言返事を返してから、思い切り地面を蹴る。
ブレス攻撃を放つために足を止めた九頭田に向かって、一気に距離を詰めて……
ククリの柄でみぞおちを痛打した。
「ゲボウッッッッ!!!?」
肺の中の空気を一気き吐き出した九頭田は、身体をくの字に曲げて膝を折る。
同時に火球も霧散してしまった。
「い、今……一歩も動かないって……」
「嘘に決まってるでしょう。バカですかあなたは?」
《ウソですb(* ´∀`)d》
《ひでえwwww》
《よくもだましたなあああああ(AA略》
《うーんこの畜生》
《クッソ雑魚で草》
《フトシくんクロウの手のひらのうえでダンシングw》
《めっちゃ気持ちいい!クロウ最高やろ》
《格の違いすぐるwww》
《 3 3 ー 4 》
《↑猛虎に対する風評被害やめろやwwww今年はアレしたやろwwwwww》
俺はうずくまって悶絶する九頭田の頭を鷲掴みにして、その顔を無理矢理引き上げる。
「あ、あ、ああ、あああああ……」
九頭田は苦痛と恐怖に引きつった表情を浮かべていた。
「ひとつ教えてあげましょう」
「ひ、ひぃッ……!」
「あなたは自分で自分を選ばれた存在だと
俺は奴の目をまっすぐ見据えながら、言葉を継ぐ。
右手の拳をきつく握りしめた。
「あなたはたまたま強力な
「その力を律せずに、あまつさえ飲みこまれてしまった弱者」
「そして、誇大妄想にまみれた悪意で無差別に人を傷つけたうす汚い犯罪者。それがあなたの正体だ」
「ち、違うゥ!! ぼ、僕ちんは、ぼくちんはァ! 光の――」
「もう喋るなクズ野郎!」
俺は握っていた右こぶしを九頭田の顔面に向かって思い切り振り抜いた。
「ギャボッッッッ!!」
ゴシャッと骨が砕ける感触。
九頭田は吹っ飛び、背中から壁に激突。そのままズルリと床に崩れ落ちる。
「あご……えぐゥ……ぶぴぃ……」
九頭田は白眼をむいて泡を吹き、完全に失神したようだ。
俺はその様を見届けてから、ほっと一息をついてダンジョンドローンのカメラに向き直る。
「
そう言ってカメラに向かってペコリとお辞儀をした。
《すげえええええ》
《圧倒的だ!!》
《かっこよすぎ!!!!》
《うおおおーッ! クロウさんカッケーッ!》
《流石です! 圧倒的でした!》
《完全にヒーローだった!》
コメント欄が祝福と賞賛で躍る。
こうして連続イレギュラー事件の犯人を捕まえるという目的を無事達成して、渋谷ダンジョンの配信は終了した。
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