09
*
「怖いもの無しだな」シュウは半ばあきれ口調だ。「アンタ、いったい何者だよ」
時田はタバコを点ける。「つき合いが長くなると、みんなそう訊く」
地階の喫茶店。喫煙スペースに他に客は居ない。
「SPやってた頃のハナシさ──」思い返すように時田は顔を上向けた。「
大阪都警本部長銃撃。10年ほど前の事件だ。本部長に構わず娘の盾になったSPの評価は、真っ二つに割れた。標的になった上司を無視するとは何事か、というわけだ。使命最優先の組織での不評と、子供を救った美談を讃える世間からの好評が交錯した。
そのSPの名は、そういえばトキタといったか──
「銃撃の瞬間に判断はブレなかったのか?」
「躰が勝手に動いてた…… 弱いものを
そうか。オレは笑ったか。そう思ったら、ますます可笑しくなった。
着信音がして、時田は手首の
「〈人喰い〉の符丁が決まったぜ。イブ、だそうだ」時田はタバコの煙を噴き上げる。「イブちゃんよ、じきに捕まえてやるぜ。待ってな」
EVE──その語の暗示が妙に気に障る。前日、前夜、直前などを意味する語でもある。
まるで
*
ECHIGOYA本社ビルの19階以上は要人階だ。認証を受け、専用エレベーターに乗り換えねばならない。
手順を踏んだ三人を乗せたカゴが最上階で開く。
ホールはやわらかな間接照明に包まれていた。深緑のカーペットが拡がる。踏み出すと、靴が心地よく沈んだ。
幼児を抱いた凪沙たちは無人の通路を奥へ進んだ。ベンケイは遅れ気味だ。
「鷹峰を呼ぶ」凪沙は
待っていたようにすぐ繋がる。
「アタシ。今ドアの前に居る」ぶっきらぼうにそれだけ言うと、相手の言葉も聞かずに切った。
なめらかな音をたてて解錠し扉が両側に開いた。
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