07

 学術部長の話は続く――

 〈人喰い〉現場の血液や体液からは、確かにウイルス型ナノマシンが検出された。役目を終えて徐々に体外へ排出されるモノだ。その構造から、検出物はEVE-1ではなく、系統が分かれた別物である事が判明した。

「この別物は便宜上EVE-2と呼称いたします。正規製品のナノマシンには、国際規格に従い製品コードに当たるものが原子配列で刻印されております。もちろん当社製EVE-1および前駆体にも刻印があります。故意に刻印を不明にしたEVE-2は、言わば海賊版でして、まあ、無印品と言いますか――」

 殺人に関わるナノはECHIGOYA製ではない――学術部長はくどいほど自社製品の無実をアピールした。これでよろしいでしょうか、と重役陣を眺めやる。

「産業スパイにでも盗まれたわけか、そのマヌケな協力企業は」川多部警部が訊いた。

「当該企業は武漢化学公司であります。本プロジェクトは武漢化学の特許を用いる箇所がありまして、開発協力という形になっておる関係上──」Eテクの社長が応じる。

「だから、かの国と関わるなと言うに」科学省次官が嘆く。

「かの国のことだ、そのEVE-2とやらをオリジナルと称して先行販売する気かもしれん」

「それが洩れた、と」

「ズサンだからね」

 あちこちで声があがる。

「続けましょう」シュウはざわめきを制して進行を促す。「EVEの副次的効果について説明を」

 学術部長は額の汗をハンカチで拭う。「はい。EVE-1に、本来の書き込み以外に、ヒトゲノム未解明部分の遺伝子を起動する作用が確認されたのです。起動された未知遺伝子が、ヒトの躰を変化させたと考えられます」

 座にどよめきが流れた。

「ゲノムの大部分が意味不明なんだろ。不明部分が目を醒ませば、ヒトの躰に何が起きるかわかったもんじゃない」保健省の医務官がヒステリックに叫んだ。「そのEVEとかいうウイルスナノマシンは、当人以外への感染はないのか? 感染の怖れがあるなら、町中バケモノだらけになるぞ!」

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