05

「ところでベンケイくん、ちょっと小さくなってないか」

 ひと回り縮んでいる。身長は2メートルを割り込んだろう。

「ナノマシンのブーストレベルを下げてもらったんス。この子のために長生きせんといかんし」

 出会った頃のベンケイはオーバーブーストだった。出力マックスで最強にはなるが、その代償に寿命を縮める。力だけを信奉していたヤンチャ坊主が、力以上に大切なものを見つけたわけだ。

 ナノの過負荷から解放された影響はボディサイズの縮小ばかりではない。老けて見えた顔は年相応の若さを取り戻している。

「そりゃいいことだ。孫を抱かなきゃな」

 パワーは大幅にダウンしただろう。だが、以前のベンケイより強い気がする。過信を捨てた強さだ。初対面でのストリートファイトには勝ったが、次はわからない。

 シュウの体内に棲むナノマシンが、手合わせしたくてウズウズしている。好戦的なところが戦闘系ナノマシンの困ったことろだ。

「ウチの会社に用なの?」ECHIGOYAのご令嬢である凪沙が訊く。

「ちょっとした会議に呼ばれてな。キミらは?」

ベンケイは気後れした表情になる。「実はっスねえ……」

「ツトムがね、どうしても鷹峰に挨拶するって言うから」横から凪沙が引き取った。

ECHIGOYAのCEO、鷹峰 政虎。折り合いの悪い父親を、凪沙は姓で呼ぶ。赤の他人のように。

 なるほど。ベンケイのいでたちに納得した。面接に臨むような濃紺スーツ姿に、スキンヘッドを卒業した短髪だ。ヤンチャ時代の痕跡は無い。

「で、社長は孫ができたのを知っているのか?」

 ベンケイは引きつった顔を横に振る。「――ケジメ、つけなきゃいかんです」

「なんのケジメよ。ばっかみたい。あんなの、おじいちゃん失格。ほっときゃいいのに」

「いや。オレはきちんと結婚を認めてもらう」

 妙な緊張感に気圧された。修羅場をくぐってきたシュウも、こういうのは苦手だ。

「まあ、がんばれ」ぶ厚いくせに内向きになった肩を叩いてやるしかない。「時間がないからオレは行くぞ」

 ――ブーステッドマン同士のカップルか。

 玄関から広大なエントランスホールを抜けながら、シュウは思う。

 普通の人間ではない稀少なブーステッドが3人、日常の往来で顔を合わせる。こんな事が当たり前になってゆくのだろうか。

 得体の知れない〈人喰い〉の出現といい、人類は新たなステージへのきざはしに立っている。そんな気がした。

 思い過ごしだろうか――

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