第10話 絵空事
1万種の植物が植えられた庭園を、カノン達は歩いていた。
黄緑の芝生の道の先には、シンボルツリーが点在していた。
その木々を取り巻くように、ベコニアやブルースターなどの色とりどりの花が隙間無く咲いている。
庭園の景色が一枚の絵画のようで、私は美しさに息をのんだ。
(完璧)
多種多様の植物は、不規則に配置されていたが不思議な事に調和がとれていた。
「これかわいいなー」
ニコニコしながらハルトはチューリップの花を指さす。
ベンチに私達は落ち着き、カフェでもらったアイスクリームを食べる。
「カノン、ここの庭園を見てどう思う?」
アンナさんが私の目をのぞき込んだ。
「えーと、きれい」
「それだけ?」
「いろいろな植物が適当にあるようだけど、引いて見ると何故か完璧な配置だと思いました」
「カノンそうよ!ここの町の人達も同じなの。1人1人が満足して自分らしく生きているから、不思議と町全体の調和もとれているの」
(なんとなくアンナさんが言いたいことは分かったけど・・・)
どうして不正や犯罪がないのか、お金がなく町が成り立っているのかは私にはわからなかった。
(言い方悪くてごめんなさいアンナさん。絵空事です)
「土の精霊さん達、お願いね」
アンナさんがそう言うと、庭園が暗転した。
庭園の一万種の植物達はそれぞれの色で照り輝き始め、台湾のランタン祭りのように、やさしい明かりはゆっくり浮上していった。
植物や花の妖精達も、残光を残しながら無邪気にあちこち飛び回っている。
辺りが明るくなっても、私はぼーっとしていた。
「さっきは驚かせてしまったから、これで許してね」
アンナさんの家に帰ると、メタンは微かに瞼を開いたが、カノンが話しかけるとすぐに目を閉じて再び眠った。
「大丈夫だよ。もう回復してるから。単純に眠たいだけだと思う。好きなだけ眠らしてあげようか、寝る子は育つ」
スイは町の道の補正をしていたらしく、タオルで額や首の汗を拭いていた。
「おーい!スイ、アンナ!」
誰かが玄関のドアをノックした。
「はーい」
「ああ、アンナ!こんにちは。ガイアの子が来ているんだって?」
「こんにちはコバルトさん。ええ、そうよ」
「ちょっと私にも会わせてもらえないかな」
ドタドタとした足音の後、恰幅の良い口ひげを生やした中年男性がリビングを見回し、私を見た。
「おおー!君か」
私は浅く椅子に座り直した。
「こんにちは、私は町長を務めさせていただいている、コバルトと言います」
「こんにちは、コバルトさん。私はカノンと言います」
「いやいや!なんてこった。ガイアの子にお目にかかれて光栄です。スイ、アンナ、町じゃちょっとした騒ぎになってて、みんなカノンさんに会いたいと言っていてな」
(地球ってそんなに珍しいの?)
「カノンさん、どうだろうか、今夜は我が家でパーティーを予定していますが、ご参加していただけますか?」
「3日前にパーティーしたばかりですよコバルトさん」
スイが目を細めて冷ややかにコバルトさんを見た。
「ワッハッハ!スイ!若いくせに固いことを。君は・・・月の民か!いやー今夜は驚きに満ちている。美味しものもたくさんあるよ」
「アイスクリーム」
「あるある!アイスもチョコも何でもあるぞ」
「ぼくいくー」
ハルトのアイスクリームの歌を永遠と聴きながら、私達はコバルトさんの邸宅へ出かけた。
コバルトさんの邸宅には、たくさんの人がそれぞれに自慢の料理や飲み物を持参して集まっていた。
大きなテーブルの上には、カップちらしやグラタン、ローストビーフにピザ、グリーンカレーやタコスそして唐揚げタワーや麻婆豆腐などの多様な料理が敷き詰められていた。
ハルトは「これ、これ」と目をキラキラさせてお皿を山盛りにしていき、アンナさんは私と作った大皿のミートスパゲティーをテーブルに置いていた。
スイはボールのようなお皿でビビンバをかき込んでいる。
子供から高齢者までみんなでパーティーを作っていて、談笑しながら食事を楽しんでいた。
「さあ、みんなビールにワインにシャンパン!何でもあるから手に持ってくれ。子供達はフルーツスパークリングワインかな?アルコールは入ってないからね」
コバルトさんがそう言うと、町の人達はグラスを手に持った。
「今日はお集まりいただきましてありがとうございました。ガイアの子、カノンさんが今日は私達のパーティーにご参加して下さった」
人々の視線が私に集まり、私は一歩下がる。
「この奇跡のような縁に乾杯!」
「「カンパーイ」」
「さあ、みんな続けて下さい」
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