第8話プロローグ 〜sideユーリ




 ついに完成致しました。

 これの凄さは作った本人達が良く理解しているはずです。これがあればこの世界のどれだけの問題が解決される事でしょう。

 それにこの技術はこれから更に応用が出来、更なる国の発展に直接繋がると言えます。


 ただ、彼らはこれをどう扱うべきか困っているようです。これ程のものを自分達が作り、その作り方を知っていると言うのを信じられないのでしょう。


「あーと、みふ、そー、らしゅ、とましゆ、なーな」


「此方こそ、この様な経験を積ませて頂き大変光栄で御座いました。また何かあればご連絡頂ければ…」


「あーぁ、ユーリ!っねない!っねないの!ばい、やーの!」


「皆さま、少々お待ち頂きたいのですが」


「そりゃー、かまいやしやせんが…」


「少々お待ち下さいませ」


 ミリアーナお嬢様の言う通りだわ。こんな発見してそれを外に漏らすなんてあり得ない。

 いや、正直言っている事は違う。お嬢様の言葉はお願い、バイバイしたくない、だ。

 でも、ジャミール卿もきっと私と同じく前者側をお考えのはず。きっと口添えをして下さるわ。

 後ろをついてくるジャミールに一瞥して、それに彼も頷いた。


ーーーコンコンッ


「旦那様。至急、お嬢様の“お願い”の件についてお話ししたい事がございます」


 これは合言葉。旦那様が何処で誰と何の話をしていようとも“お願い”と言う言葉は何よりも優先される。

 幸い相手が誰であっても旦那様の溺愛っぷりはよく知られているので、身勝手にそれを振りかざしても周りは何も思わない。いや、思わせない。いえ…思っていても口に出来ないが一番正しいかもしれません。

 実はお嬢様の“お願い”については架空の人物を作り上げてその者の手柄と言うことになっています。

 当然、利益は全てその者に。要はお嬢様の存在は秘密なのです。

 だから、“お願い”は緊急時の合言葉となっております。


「…入れ」


「失礼致します」

「失礼致します」


 私に一瞥して直ぐに私の手の中でうるうるとした丸く大きな目のお嬢様に視線が行く。


「な、何があった!」


 普段泣かないだけあって、みんなこの表情には大変驚かれる。私だって驚く。

 執務室の中を確認して、誰もいない事を確認する。


「…実は“お願い”が完成しました。ただ…職人や専門家の処理に困っております」


 言い方は気をつけなくてはならない。この件に関してはより慎重にならなければならないと判断いたしました。


 ジャミール卿が旦那様に差し出したのは深いグリーンの宝石が嵌め込まれた金の指輪。これは物を収納して置ける魔道具です。とても便利ですが、当然お屋敷一個位建てられるほど高価な品物で、持っている人は少ないのです。


(流石、卿…要領がいいですね)


 頭の良い旦那様なら中身を見れば良いのだとすぐに理解なさるでしょう。そして中身が私達が詳しい事を話さない程にヤバい代物なのだと理解して下さるはず。


ーーー旦那様が珍しく生唾を飲みました。


「…私が話しをしに行こう」


「ありがとうございます」


 指輪をジャミール卿に返した旦那様はその白く大きな物に目を奪われたが、直ぐにどう言った物なのか確認し、顎に手をやり熟考するかと思いきや、直ぐにそう私達に告げた。


「知らせに来てくれてありがとう」


 旦那様からの感謝の言葉に驚くが、そうもしていられない。


「待たせてすまないね。かけたまえ」


「「「「へ、へい。旦那様」」」」


「ウィ、ルフォード伯爵…」


「分かっている。迷惑をかけるな」


 彼は今回のお願いの為に特別に来てもらったナシュナルド伯爵。伯爵位を持ちながらも研究に明け暮れている変わったお人だ。

 下に優秀な人がいるらしく、領地などは全てその人に丸投げなんだとか。

 容姿はそれなりですが、研究のし過ぎか、少々痩せており、目の下の隈は目に余る。伸ばしっぱなしのボサボサの頭や髭はその容姿のランクをかなり下げている要因ですが、本人がそれらを気にしないのだから仕方がありません。


「君たちに提案なのだが、もし良ければこのままこの子の為に手伝ってはくれないだろうか。この子はこの通り幼いがとても特別な子でね。“お願い”は全て叶えてあげたいのだよ」


「あ、いえ。旦那様、それは此方としても願ってもない事です」


「ありがとう」


 職人達はそうだろう。此処で働ける事の意味を知らないものは少ないのですから。ただやはり問題は博士伯爵の異名を持つボナガード・ナシュナルド伯爵。

 研究者の彼を研究所から連れ出したのはかなり強制的だったと私も存じ上げております。

 現在行っている研究の研究費を捻出する為だけに此処に来た彼にとってお嬢様の“お願い”など関係ないし、多分彼は研究さえ出来れば良い人。だから、旦那様にも平気で立て付くのです。


「伯爵はどうかね」


「い、いや。実は僕の研究の結果が…」


「そうか、では君も此処に残るのだね」


「うん、良いかい?」


「娘はやらん」


「あ、あぁ、そうだよね。欲しいけど…」


「やらん!!!」


「うん、良いよ。とりあえずさ、タイライトを呼んでくれれば」


 お二人の会話の意味を察するに伯爵の研究内容が今回の“お願い”と似たような物で結果、成し遂げてしまったのでやる事が無くなった、もしくは何年も研究していたそれを最も簡単に作り出したミリアーナお嬢様のそばにいればもっと凄いものが出来るかも、という興味でしょうか。


 危険人物、とジャミール卿と目を合わせて頷き合う。こう言うお嬢様が関わる時だけは私達、妙に息が合うのですよね。






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