第2話プロローグ  〜sideユーリ



「あぁ、ミリー。僕の可愛い可愛い愛しのミリアーナ。寂しくは無かったかい?」


「ふーに!」


「「おかえりなさいませ。ファオルド様」」


「おかえりなさいませ」


「あぁ、ただいま。そうか、今日からユーリが僕の可愛いミリーの新しい侍女になったんだったね」


「はい、ファオルド様。本日よりミリアーナお嬢様の専属侍女を拝命致しました」


「ユーリは良く頑張っていたからね。君になら僕の大切な可愛いミリーを任せられるよ。宜しく頼むね」


「はい、お任せくださいませ。ファオルド様」


 お辞儀は45度。胸に手を当てて右手で制服のスカートを軽く持ち上げる。

 それを見てにっこり笑った彼はフォントリーナ伯爵家次期当主ファオルド・フォントリーナ様。ミリアーナお嬢様の歳の離れた御兄妹であられる。

 こんなふにゃふにゃした可愛らしい男の子を見てしまうととても信じられないとは思いますが、彼は絶大な権力を持つフォントリーナ伯爵家の領地経営に若干14歳と言う若さで関わるほどの実力の持ち主。それもさることながら魔術、魔力の面でも大変有望で国から王太子殿下の側近又は次期宰相として打診が来るほどの実力をお持ちでありながらも全国民の憧れ、入れば未来永劫将来を約束される狭き門、宮廷魔導士団にもお声がかかるほどの大変優秀な御仁です。

 と優秀なファオルド様の普段は《黒の貴公子》と呼ばれる程に知的でクールで近寄りがたいような雰囲気を出しているのです。

 ですので、今見ているこのお姿はミリアーナお嬢様といらっしゃる時だけの貴重な一面であり、知っているものも大変少ないのです。


「ファオルド様。お食事はお済みに?」


「あぁ、先程軽く済ませた。実は直ぐに戻らなくてはならない」


「左様でございましたか。では、お時間までどうぞごゆっくり」


 

 流石に護衛のジャミール様はその場にお残りになったが、私とカミラ様は一礼して食堂の外に出てそのまま扉の前で待機します。

 お忙しいファオルド様はこうして食事の時間や貴重な休憩時間を削ってまでミリアーナお嬢様に会いに来る程の溺愛っぷり。


「今日はご主人様と奥様も夕刻にはお戻りになられます。それまでにはお嬢様の情報を叩き込みますから覚悟下さいね」


「はい、カミラ様」


「それから、幾ら護衛と言えどもお嬢様が幼いと言えども室内にて男性と二人きりになる事はお嬢様に不埒な…いえ、フォントリーナ家の醜聞になりかねません。お側を離れることは決してない様に」


「醜聞…そうですね、気を付けます」


「それから、この後ミリアーナお嬢様はお昼寝のお時間になります。ゲップの確認も忘れずに」


「かしこまりました」


 ファオルド様の溺愛っぷりも相当ですが、やはりカミラ様も相当だと思います。勿論その気持ちは良く分かるのですが、相当だと思います。大切なので二回言いました。


 それから直ぐファオルド様がミリアーナお嬢様を抱き抱えたまま食堂を出ていらっしゃいました。

 ファオルド様はミリアーナお嬢様をカミラ様にお預けになられて名残惜しそうにチラチラと振り返りながら多分、お仕事かお勉強に戻られました。


「ミリアーナお嬢様の桃色の髪は本当に綺麗ですね…」


「ユーリ、お嬢様のお髪はとても細く繊細です。ブラシは優しく丁寧に時間をかけてお願いしますね」


「かしこまりました」


「それから、お嬢様は大変良い子で御座いますから殆どお泣きになられません。おしめの替えも忘れずに良く確認してください。勿論お召し替えの際は護衛は外してもらう事。お忘れなきよう」


「か、かしこまりました」


 なんとなく私が選ばれた理由が分かった気がする。

 フォントリーナ伯爵家は先にお話しした通り王都にも引けを取らないほどに領地は大変栄えており、他国との貿易等々で財力も伯爵家のそれではありません。更に元は宰相にと推されていた程に博識で知識人で弁も立つウィルフォード伯爵は勿論、奥様オルべローザ様も“社交界の華”と呼ばれ淑女達の憧れの存在で更には王太子の側近、次期宰相、宮廷魔導士団に推薦される程に優秀なファオルド様。

 そんな方々のお屋敷に勤める事の意味をお分かり頂けるだろうか。そう、ここは王都にも引けを取らない豊かな領地を持つフォントリーナ家。

 当然、フォントリーナ家に仕えたいと集まってくる人の倍率は王城に引けを取らないほどです。その為、このお屋敷にいる使用人は学や礼節はあって当たり前、その他色んな才能に秀でた者達がゴロゴロと集まってくるのです。   


 当然この伯爵家に勤めている時点でかなり優秀だと認められたも同然で、他からは伯爵家からのお墨付きの使用人として年老いた者だとしてもお屋敷を出た後も引く手数多なのです。

 同時に女性貴族である私の様な使用人は縁談が引く手数多になります。


 そう、私が選ばれた理由が此処にあります。私は男爵家の娘ではありますが、四女。1番上の姉が既に婿養子をとっておりますので家も安泰です。

 更にお嬢様の前任の専属侍女がその私の1番上の姉なのです。

 姉はお家のため泣く泣くお嬢様の元を離れてお家に収まりました。普段から品行方正、清廉潔白、容姿端麗、どこを取っても素敵で完璧な姉が涙を流したのはこの時だけです。

 姉の涙を流す姿…あれは見てられませんでした。

 お陰で私に役目が回って来たので、申し訳ないと思いつつも嬉しさも…これは秘密です。













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