第5話 テスト前
巨大タワーの最上部。
大きな部屋の1室にバスローブを着て椅子に座っている金髪の中年男性。
首元には3本のネックレスがきらつく。
「今回のテストの参加者は何人だ?」
スーツを着た秘書に問う。
秘書は資料を見ながら
「今回は125名の参加になります」
「ほう」
赤ワインが注がれたグラスを手に立ち上がり、隣室へと向かう。
「未来はどうなっている」
同時に3台のコンピューターをモニタリングしている男に声をかける。
「ミキタ様の地位、名誉は今以上になり、現王を超えるのに3年もかからないかと。99%の確率で後3年で世界はあなたのものです。心配ないでしょう」
「もっと衛星を打ち上げたらその確率はよりリアルに近づくか?」
「いえ。現在1,000台ほどですが、これ以上増やしてもさほど変わりはしません。日々データは更新されておりますし、予測自体も98%の結果を出しています。皆の足につけているデバイスもアップデートされており、より鮮明なデータが取得できています。心拍数や身体疲労度によって行動心理も読み解けるので、本当に現実と変わらない状況ができています」
《俺の天下ももうすぐか――》
「そうかそうか」
湧いてくる笑いをこらえながら答えるミキタ。
◇
エルム内にある王家の屋敷。
高いビルが建ち並ぶその都市で、低層ながらも広大な土地に建てられた城。
門から屋敷まで歩いて5分ほどの大きな土地が、ドーム型の透明な塀で囲われている。
その部屋の1室。
現王と元王がコーヒーを飲みながら話している。
「難しい時に王になってもろうて、わるかったのう」
白い髭が特徴的な元王。
「いえ!とんでもございません父上様。私にできる事を力を尽くして頑張らせていただきます。」
白いスーツに身を包み、スラッとした体形の現王子。
「お父上。そこでお願いなのですが、お父上の側近の2名の者を私にお貸しいただけないでしょうか?」
「よかろう。ワシから話しておく。」
「ありがとうございます。」
「何かあったらまた相談するがよい」
「はい。お父上」
◇
ホテルに到着した4人はフロントでチェックインを済ませる。
「荷物置いたらみんなでご飯食べに行こうぜ!無料の食べ放題とかテンションあがるよな」
シュウサがみんなに声をかけるとみんな笑顔でうなずく。
「じゃあ荷物置いたら2階のエレベーター前集合な」
「おう」
「わかった」
「うん」
◇
8階にエレベーターが止まるとナルとシュウサが下りる。
「811ってどこかな?」
初めてのホテルに動揺しているナル。
「ついてきて」
とシュウサが案内してくれる。
エレベータを降りて左に曲がるとすぐに810号室がありシュウサがドアの前に止まると
「ナルはこの横。荷物置いたらすぐここで待ってるわ」
「うん」
ナルはドアに811と書かれた部屋に入っていく。
ドアを開けると左手にはシャワールーム。
奥に進むと、広い部屋に机とイスがあり左手にセミダブルのベッドが2つ。
右にはソファーとモニターがあり、向いのガラスからはエルムの街が見下ろせる。
荷物をソファーに置くと
ワクワクした表情で窓まで行きガラスに張り付くナル。
《こんなところが近くにあったんだ!ワクワクが止まんないや!》
たまらずベッドに飛び乗ると、楽しさのあまり何度もジャンプして遊ぶナル。
《こんなベットも初めて》
ふと父親の声を思い出す。
『世界は広いし色んな奴がいる。最高に楽しい経験になるさ』
《ホントに楽しいや》
ニヤニヤしながらベッドで飛び跳ねていると、ドアをたたく音が聞こえる。
「おい!まだかー」
《あっヤバイ、夢中になって約束忘れてた・・・》
「今行くーーー」
◇
お腹がはちきれんばかりに膨れたシュウサ。
「あー食った食った」
「お前ホントにすげー食べるよな」
アキが驚きながらシュウサに言う。
「いよいよ明日テストだね。なんか緊張しちゃう」
とナル。
◇
「じゃーまた明日」
シュウサが言うとナルが手を振る。
「じゃあな」
アキも手を挙げる。
エレベーターに乗り込み扉が閉まると
「お前らに出会えてホントによかったよ。明日は頑張ろうな」
とアキ。
エレベーターが7階に着くと
「じゃあな」
とアキが下りていく。
「じゃあなおっさん!寝坊すんなよ」
とシュウサが言うとエレベーターから降りたアキが殴る振りをした後、笑顔で手を挙げた。
◇
810の部屋の前でスーツを着た二人組の男が立っている。
一人は細身、もう一人は筋肉質のガッチリとした大柄で、
二人共サングラスをしている。
「ホントにここにあの4家の子供がいるんですかい?」
細身の方が尋ねる。
「あぁ確かな筋から聞いた」
「捕まえて脅したら大金出してくれますよね」
「大丈夫だろう。1億ぐらいはあの家にとっては痛くも痒くもねぇだろう」
そこにナルとシュウサが歩いてくる。
「おじさんこの部屋になんか用?」
「こいつだ!捕まえろ!」
大柄の男が指示を出す。
「はい。兄貴」
男たちはシュウサに素早く飛び掛かるが一瞬の内にボコボコにされ、
大の字に横たわった大柄の男の上に、細身の男が重なるように倒れこんでいる。
男たちの頭はたんこぶだらけ、顔も腫れ上がっている。
「たまにあるんだよな~こーゆーの!俺に勝てると思ってんのかな?」
シュウサはスマートフォンを開き
「リトユホテルで襲われて相手やつけちゃったから、あと片づけといて」
通話相手に一方的に用件を伝えると
「じゃまた明日なー」
とナルに言い部屋に入っていった。
ナルは日常とはかけ離れた出来事にビックリして固まってしまっていた。
「あっ」
我に返ると
「また明日」
と自身の部屋に入っていった。
NARU‐ナル‐ 冒険の始まり 青川 友之新 @Aokawa_Tomonoshin
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