第11話

「元・第10部隊所属!前線にて防御を得意としてます!

護真ごま 麒麟きりん】です!

 使用武具は大盾と短槍です!

【覚醒者】の証は右腕のこれです!パワー重視の【覚醒者】です!好きな食べ物は圧倒的に肉です!嫌いな食べ物は野菜全般です!

 あとは―――あとは~「黙りなさい」!?何をぉ!?」


「無駄に長いからよ」


「む、むぅ…」


 「さて、お初にお目にかかります。元・第5部隊所属の【九馬くま 水姫みずき】。水の【能力者】でございます。

 どうぞ、よしなにお願いしますわ」


「改めて、【神楽かぐら 美雪みゆき】よ。

 君担当の医者、兼科学者を務める事になったの。よろしくね?」


「何故美雪さんまでいるんですか…」


「えっと…?よ、よろしく?」


 時刻は既に19時を指し示している。

 何時もであればラギと明日香は食卓を囲んでいる時間であるが、今回は今後活動していくチームとしての自己紹介と婚約者となった事も兼ねての親睦会の様なものが開催されていた。


「さて、今回お前たちを呼び出した理由は理解できているか?」


「はい!」「ええ」

「ワタシは便乗した形だから当然ね」


 各々が理解している様に頷き返した万理華。しかし、本当に理解しているのか不安を感じる。特にこの中では一番不安を覚えるのは麒麟。そんな不安の種となっている彼女に自分が理解している現在の状況を説明するように命を下した。


「はい!

 アタシたちは今目の前に居られる男性であるラギの同部隊配属の為、ご挨拶に伺いました!また男性であるラギの護衛任務も兼ねている事を説明され、これを理解しています!」


「よろしい」


 元気ハツラツの元気娘の護真麒麟。

 明るい金髪のショートカット女子。恐らくは同年代だろうと予想しているラギであるが、実際の年齢は28歳。ラギよりも8歳年上の女性。

 身長が高めであり、体も相応に鍛えた為か、女性にしては幾分か体格が良い。とは言え、ラギから見れば十分にスレンダーな部類に入る体格ではある。しかし、その体格、身長の為か、童顔であるにも関わらず幼くは見えない。

 性格も相まって実年齢よりも幼く見えてしまう女性である。

 因みに彼女が誉とする右手に出ている【覚醒者】の証。

 これは【覚醒者】全員にあり、突出した能力に関連した部位にこれがある。麒麟の場合は全体的に力に突出しており、特に証のある右手の力はかなり強い。この右手全体に赤黒い鱗文がある。


「因みに今回の件はどの程度の難易度の任務に該当するか…クマ。予想できるか?」


「与えられた情報を考えると…。そうね…。

 男性の護衛。そこのお方の素性は説明されていないけれど、護衛するだけの身分。若しくは事情がおありなのでしょうね。つまり、護衛と言うだけでも難易度、重要度は高い任務になるわ。

 加えて、同部隊で任務に就く事は不可解だけれど…そので更に難易度、重要度が高くなる事は明白。

 これらから予想出来る任務の難易度は、『特級』が妥当。

 じゃないかしら?」


「相変わらず敬語は喋れない様だな。一応ウチは上司なんだけどな?

 ま、内容は概ね正しい。が、いくらか説明していない点を含めれば…。

 難易度は『がい』になる。が、正解だ」


 上司であるはずの万理華を目の前にして全く怯まず、堂々と普段の話口調で話を終えた九馬水姫。

 どこかお嬢様然とした雰囲気をしており、セミロングの真っ黒い髪の毛は艶やかさも相まってどこか触れ難い高貴さを感じさせる。身長は女性として平均的な身長をしているにも関わらず、高身長の麒麟と麒麟ほどではないにしろ平均よりも高い美雪を横にしている現在も不思議と身長差を感じさせない存在感が彼女にはあった。

 後は手癖の様に両の手で弄ぶ扇が妙な貫録を与えている事も存在感を強めている一因になっているのだろう。


 そんな麒麟と水姫は万理華が口にした『外』。

 事実上最高難易度とされているのが水姫が口にした『特級』であるのだが、更にそれの上。成功しない事を念頭に置かれた達成不可能な難易度であるとされる『外』。それを耳にした途端、片や驚きを、片や訝しげに万理華を凝視していた。


「へぇ~」


 一方美雪。

 ラギの身体能力テストにて同席し、ラギの身体能力を現代科学の見地から様子を見ていた科学者。科学的な見地から見ても意味の分からない数値であるラギと言う存在。その存在は科学者である美雪の興味をこの上なく掻き立てた。

 「解剖したい」等と物騒な事までは想像していないし、許可が出たとしても、流石に男性にその様な扱いをする気はさらさらない。が、血液検査やその他様々な医療機器を使っての検査、その他諸々…。

 その結果を想像し、異質となっているその要因を想像するだけで……。

 万理華と同年代である所為か、色気が麒麟、水姫よりも割増しで感じさせる雰囲気を持ち、また美麗な顔立ちで怪しく笑みを浮かべる様は妖艶と言って差し支えないだろう。

 自身の表情に気が付いた美雪は慌てて表情をいつも通りに戻し、誤魔化しの動作、長い髪の毛を後ろへと払った。


「ふむ。ミユキは驚かないんだな?」


「ワタシは彼女たちよりも多少は事情は知っているつもりだしね。

 彼の希少性を考えれば万全を期するのは当然だし、任務内容次第では無理難題の『外』となっても可笑しくないでしょう?それに、希少であると言う事は、それだけ面倒事が起きる可能性がある。という事でしょうしね?そう考えると最上級である任務難易度になっても可笑しくはないわね」


「確かにな」


「あ、あのぉ~。事情?と言うのはアタシたちも知っていい事、ですか?」


 先程までの元気ハツラツは何処へ?と思える面持ちで、恐る恐る万理華、そして何やら事情を知っているのであろう美雪にもチラチラと視線を向ける麒麟の姿があった。


 姿勢も、そして表情も動いていない水姫の眼にも興味が湧いている。


「あの~、まず座りません?立ち話って言うのもなんですし…」


 出迎えた先であるエレベーター前での一連の流れに、長年培ってきた習性とも言える日本人が持つ気遣いが我慢の限界を迎えたラギが口を挟んだ。

 ラギにしてみればこれからよろしくしていく仲になるであろう人たちであり、お世話になる事も多くあるであろう人たちである。

 そんな人たちを玄関先でいつまでも立ち話をさせているのは気が引けていた。早々に中へと案内してから座ってもらい、お茶の一つでも出したいところだったのを、グッとこらえていたのだった。


「それもそうだな」


「皆さんこちらです」


 納得した万理華の頷きを合図に明日香の案内に従い奥へと進む。


「最上階ってこうなってたんだぁ~」


「流石はVIP仕様って感じよね。わたくしの実家と比べても遜色のない。実に美しい仕上がりだわ…多少寂しさは感じはするけどね」


「高そうなものばかり…落ち着かないわ」


 初めて訪れる面々。

 普段この最上階は閉め切られており、許された人間しか入る事が出来ない。そんな場の感想を漏らしつつ、案内された先であるいつも使用されているに各々が座った。


「あら?あのお方は何処に行ったのかしら?」


 ラギの姿が見えない事を今更ながら気が付いた水姫。

 水姫の発言によって更に遅れて麒麟と美雪がラギが見えない事に気が付いた。


「え!?まさか何か!?」


「落ち着いて下さい。

 ラギさんならほら、あそこです」


 この場から唯一死角となっているのは左右にあるドアを隔てた部屋以外ではバーカウンターの下部分。そのカウンターの中に入り、屈んでしまえば回り込みでもしない限り見えない。

 明日香の落ち着き払った声と共に指し示した先で、丁度ラギがバーカウンターから姿を現した。


「今コーヒーを淹れてくれてますから」


「!?殿方にお茶くみを!?」


 驚く面々とは裏腹に、ここ数日の間に何時もの事となっている事で慣れ始めた万理華と明日香。そんな二人に水姫が糾弾の声を上げたのはこの世界の常識的に考えても不思議ではなかった。


「ラギさんを普通の男性と思うのは止めた方が身の為ですよ?」


「ヒイラギの意見に一票だな」


「どういう事…?」


 呆気らかんと返した明日香と万理華の言葉。

 常識的に考えて信じられないとばかりに、麒麟の呟きが漏れた。


「お待たせしました」


 そんな会話が漏れ聞こえてはいたが、多少この世界の常識に慣れを感じ始めているラギは特に何も反応を返すことなく、それぞれの前にコーヒーを配膳。最早定位置とばかりに自然と明日香の横に腰を下ろした。


「お、男の人が、淹れた、こーひー…!」


「お、落ち着きなさい麒麟さん。冷静に。冷静に味合うべきよ。落ち着きなさい。落ち着くのよ…!」


「はぁ~~~おいしい~~~」


 震えながらコーヒーカップに手を伸ばす麒麟。

 そんな麒麟に言っているのか自身に言い聞かせているのかよくわからない状態で話す水姫は、カップにすら手を伸ばしておらず、扇をソワソワと遊ばせている。

 一早く驚きから立ち直った美雪はそそくさとカップを口に運ぶ。特別な方法ではなくお手軽なドリップコーヒーではあるが、豆は超高級品であるから美味しいのは確かである。が、それ以上のおいしさ、そして幸福感を感じていた。


「さて、じゃあ話の続きだが…。先ず共有しておく事。この二人の婚約についてだ」


「「「!?!?」」」


 ラギはいきなりのカミングアウトに照れと驚きから突如として集まった3人の視線から目を反らす。明日香は恥ずかしさから身動みじろぎこそしたが、顔は背ける事無く僅かに頬を染めつつ自慢するかの様に背筋を伸ばしていた。


「…は?え?あの…こちらの【柊 明日香】、さん、が?」


「ず…ずるいぃ!!」


「ま、また…また、年下に…先を…」


「次に」

「ちょ、ちょっと!お待ちを!」

「ん?」


 なんてことない。そんなノリで次の話へと進もうとした万理華を水姫の焦りを含んだ声が待ったをかける。


「どどどどういう事なの!?」


「どうもこうも言った通りだ」


「詳細を!…そう!詳細を求めるわ!!」


 お嬢様然としていたにも関わらず、なり振り構わない前のめりの姿勢で声を荒げる水姫。それを密かに応援している麒麟と美雪は、明日香に妬みを抱き、敵意にも似た視線を明日香に向けていた。もっとも、明日香はそんな視線は予想の範疇。涼し気にコーヒーを楽しんでいるが…。


「事の詳細を話すにはラギ君の事について話す必要が出て来る。

 これについては機密事項となっている為、ここで聞いた事はこの場に居ない誰かに話す事は禁止だ」


「…機密。とは穏やかじゃないわね?」


「しかもこの場のみ?他の隊員たちにも秘密という事なのかしら?」


「うぅ…。アタシ秘密って苦手…」


「今ここで機密を漏らす可能性があると自身で判断する者。守る自身が無い者は退出を願う事になる。勿論今回あった人事異動もなしになるがな…。どうする?」


『機密事項』。

 これは確かに御上からの指示であった。が、万理華の考えではラギの事を機密にすることは不可能だと思っている。


 機密事項として指摘されたのは、ラギの出自について。そして異常な身体能力についてだ。


 前者については機密に出来る可能性はある。

 しかし、恐らくバレる可能性の方が高い。何せラギの言動にはこの世界では考えられない実に様々な事があるからである。隠そうとしてもそうそう隠せる様なものではないだろう。

 それでもどうしても機密としたいのなら『監禁』するくらいしか方法がないと考えている。


 更にどう考えても機密に出来ないであろうと思っているのがラギの身体能力だ。

 配属されるのが現場か内勤かはわからないが、バレる場面は無数に出て来る。現場では尚更その場面が発生する可能性は高いだろうし、内勤であっても業務によっては外注先と協力する案件もある。

 出自と同じく隠そうとしても隠せるものではない。


 それでも御上が隠す様に指示を出したのは、ただの

 今この場に呼び出された者たちに緊張感を持たせ、協調性を磨く事と、ラギと言う存在の重要性を分からせる為であった。


 その辺りの御上の考えも理解している万理華にとって、今のこの会話はただの茶番でしかない。

 バレる前提で機密保持を求めているのだ。普通に冷静であれば少し考えてわかる事。


 しかし、それでは緊張感を持たせると言う目的を達成させるには少し弱い。

 そこで万理華が取った行動が、先に婚約のカミングアウトをする事だった。


「ワタシは残るわよ?面白そうじゃない」


「勿論わたくしも残留よ。殿方の護衛なんてこれ以上光栄な事はないわ。それに加えて同じチームとしても活動できるなんて、夢の様なんだから」


「あ、アタシ…も…。アタシも参加でお願いしますぅ!」


 麒麟はどうか分からないが、水姫、そして美雪が少し考えればこの機密事項のからくりはすぐに理解できていたはずである。しかし、男であるラギとのこれからの生活を夢に見。浮ついた心に嫉妬心を煽られる事で冷静さを欠いていた。


 結果として、考えが酷く浅くなり、御上の狙い通りの効果を三人に与えたのであった。


 そして、当然と言えば当然。ライバル心も芽生えていた。


「さて、ラギを改めて紹介しよう。

 と、思ったが、こう言うのは本人からの方がいいだろうな。って訳で、頼む」


「え~っと、なんかもう知っているみたいだけど、【ラギ】です。

 色々とわからない事が多い変な人間なんだけど、見捨てずによろしくして貰えると嬉しいです。どうぞよろしく」

「「「はい」」」


 声を揃えて食い気味に返事を返す三人に苦笑を漏らす明日香と万理華。

 この世界に女性がラギを『見捨てる』など、そうそうないとは思う。それはラギ自身も薄っすら理解しているが、それに驕らずに男として、人間として自分を磨いていきたい思いからの自己紹介であった。


「彼は【ラギ】と紹介した。呼び名もラギで構わないんだが、本名は【柊 飛鳥】と言う。これも一応記憶しておいてくれ」


「「「はい」」」




「「………はい?」」


 美雪以外の2人が脳内にラギの名前を刻み込む。

 しかし、そこに妙な引っ掛かりがあった。


「わたくしの記憶違い、若しくは聞き違いでなければ…明日香と同じ名前ではなくて?」


「ええ。そうですね」


 まさかの同僚であり婚約者と言う今一番妬ましい女性と同姓同名。

 三人は色々と考えが巡るが行き着いた先を簡単に、簡潔に言うなれば「ふざけるな」であった。


「話を進めるぞ」


 三人の考え、感情を理解は出来ている万理華であったが、いちいち話が進まない。ただでさえ夕食の時間がおしている今。一刻も早く話を進め食事を取りたかった。そして、男性であるラギにも食事を遅らせている申し訳なさからも早めに終わらせるべく、万理華は多少強引である事は自覚しつつも話を進め始めた。


「先ずラギ君の出自に関して。

 これはトップシークレットと認定されている為、知らせる事は出来ない。ウチとヒイラギは知っているし、当然御上も知っているが、他の誰も知らん事だ。詮索しない様に。それから誰かから聞かれた場合はトップシークレットである事は伏せ、知らないと答える事。イイな?」


 話は先ずラギが異世界人である事について。

 これは確証が持てていない事。そして、その特殊な事情を無暗に公言する事によって混乱を生まない為。そして何より、何かしらの勢力に狙われない為の措置であった。

 バレる可能性は高いと踏んでいる万理華でさえ、これには賛同せざる負えない。世間の混乱や事実を疑うと言うのはどうでもいいが、可能な限りラギのリスクを減らす為に、である。


 次いで万理華が話したのは、ラギの身体能力について。

 これは包み隠さずに話す。


 そもそも美雪は身体能力テスト時に同席している為、今更この場で秘密にする必要はない。意味もあまりない。


「まさか、そんな、と言ったところで、こうして実際に数値が出ているのだから疑うのも馬鹿らしいけれど…」


「マジですか…」


「本当よ。ワタシもテストの時に同席したから真実である事を証言するわ」


 万理華は三人にテストの結果を紙に印刷した物を渡す。

 この場に居る者以外に漏らす事は厳禁である機密事項の一つであるラギの身体能力のデータであるが、万理華の考えとしてはいづれ、それも早々にバレるとは思っている。が、現時点では機密事項は機密事項。紙として出したこれはそれなりにマズイものであるが、この後すぐに焼却処分する予定である。ただ話で聞くだけよりは、こうして紙に書かれたデータを見た方が信憑性は増す為、用意したものだ。証言者とも言える美雪が居る事で、よりデータは信じられるものになった事だろう。


 そうしてこのデータを見せる事によって、男性であるはずのラギが部隊に配属された理由、働く事を自然と理解、納得させた。


「……なるほど。理解したわ」


「…(流石はミユキね。ウチのさっきの誘導。もう気が付いたみたい)」


 万理華の考えを見抜いた。そして、今の万理華の心の声が聞こえた訳では無いだろうに、万理華へとひっそり片目を瞑った。


「さて、ここまで話を進めた訳だが…話の続きはまた明日だ。解散解散」


「解散の前に質問いいかしら?」


「ん?」


 飯の時間だ。

 そんな万理華の心の声を遮る様に水姫が万理華へと向く。


「わたくしたちがここへと呼ばれる前。多くの隊員たちがある部屋に呼ばれたのは審査の為だと思うのだけれど。はたして何を審査されたのかしら?それが分からないのだけれど?それに不思議な事にあの場に居なかったはずの美雪さんがこの場に居る…説明して貰えるかしら?」


「あ~…」


 この質問には困った万理華。

 来なければいいな。来なかったからこのままさっさと終わらせよう。そんな都合が悪いと思っていた話をこのタイミングでされてしまった。

 彼女の心境は、ため息を深々とつきたいところであった。


 あの時あの場に呼ばれていた隊員たちには詳しい事情は知らされていない。ただ任務があり、その任務を与える者を選ぶために呼ばれた事だけが説明されていた。

 その程度の情報しか与えられていなかった隊員たちには当然ながら不満があり、この場に居ない隊員と麒麟を代弁する形で水姫は質問を口にした。

 態々質問しなくともある程度の予想は立てられる事ではあるし、知った所でこれからの事や他の何かに影響がある訳では無いと思っている。しかし、答えを知りたいと思うのは至極当然の事。それに、妙な感覚…『勘』とも言うべき何かが水姫の口を開かせていた。

 水姫の考えとしては、男性が絡んだ仕事であるのならあの異例の招集も仕方なかった事である。っと納得はしている。だが、あくまでも予想して、その予想に納得できただけ。勿論納得できたのだからそれで終わらせても良かったのだが…。


「まあ…そうだな。この任務を与える為、ラギのチームメイトを選ぶために呼んだ。これでイイか?」


 万理華の口から出て来た答え合わせ。

 予想通りの答えだ。しかし、今度は何故か納得できなかった水姫は更に口を開く。


「何か他に事情がある様に思えるのだけど?そこのところはどうなのかしら?」


「まあ…あるにはある。が、秘密だ」


「機密…という事かしら?」


「そうじゃない。が…答えは明日にしてくれ。イイ加減腹減ったんだよ。ウチは」


 この話をし始めたら確実に長くなる。

 ちらりと時計を見れば時間はもうあと数分で20時になるところ。これ以上遅くなりたくなかった。


「……仕方無いわね。それでは明日。答えて貰いましょうか」


「はいはいっと…なんかウチが部下みたいじゃないか?」


 万理華の問いかけは麒麟、水姫、美雪のラギに対して辞する挨拶にかき消された。

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