初めての客(3)
背伸び女の目は、明らかに私を見下していた。
インスタ用の写真を撮るために口もつけていないカフェラテを指して、顎を少し上げ、斜めに構えたまま言った。
「このカフェラテ、薄いんじゃ無いの」
「いえ、ドリップでも豆を多くして濃いコーヒーを抽出してますので、エスプレッソマシンで無理やり濃く抽出したコーヒーを使ったカフェラテよりも美味しいはずです」
言ってしまった。
というか、言い過ぎた。「無理やり濃く出した」は、エスプレッソマシンを使ったコーヒーを否定している。言いたかったのは、コーヒー豆を多くしてドリップで抽出したコーヒーのほうが美味しいと言いたかったのに。
「あら、そうなの。でも、スタバとか多くのカフェではエスプレッソマシンを使っているんじゃないのかしら」
どうやら、彼女を怒らせてしまったようだ。ここは、正論を言って論破してもこの客は納得しないだろう。
「それじゃ、失礼しまーす」
自分の安易な営業トークから、場を凍らせた色黒の真っ白な歯の男は、顔を引きつらせながら店から逃げて行った。
「あ、そうですね。エスプレッソマシンを使っているカフェは、多いですね」
私は、彼女の怒りが収まるように逆らうのをやめた。ただ、早くこの状況を終息させたかった。
でも、彼女はエスカレートして
「それにねー」
「ラテアート下手過ぎじゃない!」
「うっ!」
そこを突いてきたか。確かにラテアートは下手だ。その上、初めてのお客さんで緊張して手が震えてラテアートも微妙に歪んで見える。
「表に開店祝いの花があったけど、経験少ないんじゃ無いの!」
「ラテアートの時、手が震えてしね~」
まずい。
インスタに夢中で、見てないかと思っていたが、私の手の震えをしっかり見られていた・・・
私の口は乾き、冷や汗が出ているのを米噛みが教えた。
背伸び女の目がゴジラの様に鋭くなり、吐く言葉はありとあらゆる物質を破壊・爆発させてしまう放射能火炎の光線に見えた。
それから、ゴジラは光線を吐きまくった。
・・・・・・
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