第3話
割とフランクだ。関係性が不明確過ぎる。
"怪我は?"
"私の事どのくらい覚えてる? "
"いつから学校行けるの? "
"お母さんは大丈夫? "
俺が打ち込もうとしているところを遮るように返信が連投される。何となく、この子とはそこそこ仲は良いのかもしれない、と思った。怪我は大したことない、と打ち込んだところでまたLINEが届く。
"連投してごめん 今電話できる? "
何故か俺は焦っている。女子高生と電話だと?! どんな感じで話をすれば良いのか分からない! とはいえ、この調子だと電話の方が早そうだ。
"分かった ちょっと待ってください"
病院の廊下に出ると、LINEの通話ボタンをおそるおそる押した。呼出音が鳴っている間、心臓までバクバクしていることに気付いた。出た。
「……ナルミ? 」
「あ、ああ、うん。ナルミだ。怪我は大したこと無いから心配しないで。あと、学校はいつからか分かんないけど、明日もう退院できるみたいで」
「そっかあ、良かった……記憶喪失って言ってたけど、学校までの行き方は分かるの? 流石に……おばさんに付いてきてもらうのはアレだし」
「おばさん? 」
「あんたのお母さんのことだよ。てか怪我したのはナルミだけってこと? 」
「そ、そう。あ、いや、スミタカエデって2年の先輩の親御さんも怪我してる。その人が運転手で」
一瞬沈黙が流れた。何かのワードにハヅキさんは引っかかったようだ。もしかしてスミタカエデ?
「どうかした? もしかしてスミタくんのこと何か知ってるの?」
「……知ってるも何も、ナルミは興味無いかもだけどさ、スミタ先輩は学校1人気者のイケメンじゃん。こりゃ明日はこの話題でもちきりかもね」
「は、はぁ……本当に居るんだそういうの。それはともかくさ、俺とハヅキさんってどういう関係なのかな? ごめん……」
「何だよその聞き方! 私達は友達。幼なじみ!」
急に声がデカくなり、俺はスマホを耳から少し遠ざけた。その後も、ハヅキさんは色々なことを掻い摘んで教えてくれた。ハヅキさんは俺の幼なじみで、小学生頃からの仲らしい。同じく都島高校に通っていて、奇跡的にクラスも同じ、隣の席だということ。そして、俺は母子家庭で、一人っ子。両親は離婚をした、と過去の俺は言っていたらしい。離婚の原因は家に帰れば分かる、とハヅキさんは言っていた。嫌な感じだ。
「私が知ってる範囲のこと色々話したけどさ……ナルミだいぶ記憶喪失してるね」
「うん……後は、学校行ったり家行ったりして俺なりに整理してみようと思うよ」
「……何か冷静過ぎて気持ち悪い。……私とデートしたことも忘れちゃった? 」
「え?」
デート? そんな写真無かったはずだ。いや! いいや違う! 男子はそういう写真は鍵付フォルダに入れたりする! 見落としていた!
「ご、ごめんハヅキさん! やっぱり俺達もしかして」
すると、ハヅキさんはゲラゲラとおかしそうに大笑いをした。
「だーかーらー付き合ってないってば! 早く記憶取り戻してね、ナルミ! あと、ハヅキで良いから! 」
ハヅキさんとの電話は何だか楽しかった。でも、どこかハヅキさんは寂しそうにしているような気もした。通話を終えた後、俺は鍵付写真フォルダをしっかり見つけた。が、ここだけは頑丈なロックがかかっており解除できなかった。思わずため息をつく。
俺はベッドに横たわり、記憶が新しいうちにメモ帳に"ハヅキ"の情報を記入した。ハヅキさんは信用できそうだ。
"ヤザワナルミ"を知るために、ハヅキさんとは仲良くしておく必要があるだろう。疲れた俺はいつの間にか眠っていた。
翌日の昼前、母が迎えに来て俺はその日一旦帰宅することになった。見慣れない路線の電車に乗り、周りを見回した。やはり普通の人間しか居ない。異世界のような獣人とかも居ない。電車広告も普通。脱毛、英語教室、転職、マッチングアプリ、脱毛、育毛、ラノベ。ラノベ?
あるライトノベル作品の広告だった。作品名は、「異世界転生したら最強ハーレム人生だと思っていたが、冷蔵庫になっていて心も体も冷えそう」。
「何だそれ」
「ん? ナッちゃんどうかした? 」
「あ、いや。あのラノベのタイトルおかしいなって思って」
「ね。だから前から言ってるじゃない。変なタイトルねえって。やっと自覚した? 」
「へ? 」
母親は俺のことを一瞥すると、ため息をつきながら言った。
「ナッちゃん、ライトノベルっていうの? よく買ってたじゃない。たまには普通の小説も読みなさいよ」
ヤザワナルミはラノベ好きだったらしい。最寄り駅に着くと、5分ほど歩いた。のんびりとした商店街を抜け、一軒家の自宅に着いた。家は二階建てだった。
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