第12話 好印象タレン【C】④

酒は仕込んだ期間が長いほど上手くなるとはよく言ったもんだ。

今回、時間がかかった事が功を奏した。


つまり記憶を無くすほど呑んだとはいえ、数日後では記憶を取り戻す可能性だってある。

正直、警察も悩んだと思うよ。


こんなこと言ったら、いわゆる〚オトコガー〛の女史たちから吊し上げくらいそうだが、警官の本音は『見ず知らずの男ならともかく、自分から訪ねた部屋でキスされたって言われても』だったろうな。


これが強姦なら、体液のDNAとかで調べもつくだろうし、仮にキスとはいえ抵抗した際に傷のひとつも身体にあれば傷害でひっぱる事も容易かっただろうが……


一緒にいた友だちの証言のみで、大物タレントをひっぱる事に二の足を踏むだろう事は想定済みだ。


警察が躊躇している内に、そうとは知らずに毎日働くタレントを尻目に、俺は彼女たちに次なる司令を送った。親を巻き込めと……


つまり親から警察に怒鳴り込ませろと。


親には前に迎えに来てもらった日、実は無理やりキスされてしまった。キスぐらいで騒ぐのは、みっともないかもしれないが、たとえアイドルだったとしても、親と年齢の変わらない様なオッサンは気持ち悪い。

何より下手したら、弱い立場の自分がまくら営業を仕掛けたと捉えられては困る。

そうなる前に先手必勝!

今の世の中弱者にはトコトン甘い。

でもこのまま警察が動かなければ、取れるものも取れやしない!!


まぁそんなふうにでも言ってやれと伝えた。


娘可愛さの裏側でそろばんはじきながら、警察署に日参する親に根負けして、警察が動いたのは1ヶ月後の事。


任意の事情聴取って形とはいえ、初めての事に戸惑う男に警官が詰め寄る。

最初こそ『やってない』と言ってた彼も昔、自分の出たバラエティーで自分の仲間たちが盛りに盛った軽口で『彼はね〜酔うとキス魔になっちゃうんだよね』とか『酔って俺のオヤジにもキスしてたからね〜』なんてVTRを見せられたら『覚えてない…』としか言えなくなったらしい


結局、警察の伝家の宝刀である『このままだと逮捕になっちゃうよ』で男は震える小さな声を発した。

『事務所に電話していいですか?』と…



事務所から差し向けられた弁護士と打ち合わせたらしく彼は目に涙を浮かべて震えた声でこう言ったらしい。

『あまり覚えてはいないけど…やりました』



弁護士は被害者家庭に日参し、訴えを取り下げて貰う事を条件に慰謝料の額を決める。

示談に持ち込む事で、仮に起訴されても不起訴に持ち込む作戦だ。

示談に持ち込んで不起訴になったなら、本来この事は公にはならない。弁護士としてはセオリー通りの動きだな。


逆に女側はそれを盾にして、示談金を釣り上げる。キスひとつとしては破格の数千万円で手打ちが済んだと女側からは報告があったのを見計らって……俺はとあるテレビ局にリークを仕掛けた。

内々で手打ちされたら俺に依頼主からの金は入らないからな。



その日のうちに、この話は日本中を駆け巡り……あとは誰もが知ってる通りだ。


元々、人気者だったからファンや、仲の良いタレントなんかが擁護の声を上げたりしたけど、『相手はJKなんですよ!!』って一言でみんなが押し黙って行った。


まぁ『タレント活動してる様なJKがそんなに清純な訳ねーだろ』って言葉は心に秘めたまま…彼は表舞台から去っていった。

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