第10話 好印象タレント【C】 ②

最初の計画では前のように女を近づけて、事が済んだら警察へGOってつもりだったんだがちょっとばかり事情が変わってきた。


1部週刊誌が取り上げたのは〚飲み過ぎによる肝臓の不調で極秘入院〛だが、どうやらそれは違うらしい。

本当の病名は糖尿病。


アイドルってのはいくつになっても見栄っ張りだよな。糖尿病とか痛風とかよりも酒の飲み過ぎで肝臓が…ってのがまだ男らしくていいって思い込んでんだろう。



そうなるとちょっと厄介だ。

実際には糖尿病患者の全てが、勃起不全では無いだろうが、世間一般では糖尿病=インポテンツのイメージを抱きやすい。

女がレイプされましたと言って警察に駆け込んだとしても、糖尿病ですって言われたら被害者側の捏造って取られかねない。



嫌でも昔、この事務所に煮え湯を飲まされた時のことを思い出す。

あの時は確か…腰を痛めてたんだっけか?


当時、俺はとあるタブロイド紙の記者をしていたんだが、そんな俺の元へ一通のタレコミ情報が舞い込んできた。


この事務所で今回のターゲットの後輩にあたる、飛ぶ鳥を落とす勢いのアイドルにレイプされたという女からのリークだ。


その女は売り出し中のグラビアアイドルで、そいつによれば、酒に酔ったアイドル(以下Zと呼ぶ)を部屋まで送った所、無理矢理レイプされたと言う。

正直、女の売名臭いとは思わなくは無かったが、Zの寝姿写真を持参してきた事もあり、俺はそれを記事にした。



普段はこの手のスキャンダルには、知らぬ存ぜぬを通す事務所も、性犯罪となれば動かない訳にもいかず……


そのグラビアアイドルと事務所の社長が、その人気絶頂アイドルZの事務所に赴き、当時の副社長と話をつける事になった。


もちろん俺は、記事を書いた当事者でもあったし、その会談の様子も記事にするべく同行したんだ。

だが……残念ながらこの会談を記事にする事は出来なかった。なぜならこの会談が、刑事事件に発展してしまったからだ。



この世界の女帝のツートップとも言える、副社長にことごとく論破され、堪忍袋の尾が切れたグラビア側の社長が、怒りに任せてZ側の副社長を、思いっきり蹴り上げてしまったのだ。

すぐに警察と救急車が呼ばれ、グラビア側の社長は傷害の現行犯逮捕されてしまった。



その後、グラビア側の社長とも連絡が取れないまま…Zの事務所からは、酒に酔ったZを送った女性の捏造であったと、グラビアアイドルの謝罪文も添えて発表された。


とはいえ腰を痛めて、コンサートすら杖をついて参加していたZが、付き合いとはいえ酒宴に参加したのは、誠に遺憾ですとも付け加えられた。

その事で一気に風向きが変わり…Zのファンからも責められる形でそのグラビアアイドルはこの業界を去った。


もちろん俺も、裏取りをせずに記事にしたという事で減給されたんだが……



そんな事を思い出しながら、今回のターゲットとなるCに関する記事を、片っ端からチェックしていく。


ふと目にしたCの出演番組。共演者のTwitterを見ていくと、数人が彼に関して賞賛のツイートをしている。

その大半は〚初めてのドラマを褒めて頂きマネージャーと一緒にご飯をご馳走して頂きました〛とか〚舞台を見て頂き花を送って頂きました。その後、舞台の感想のお電話までありがとうございました〛といったものだ。



後輩への面倒見が良い、兄貴的イメージの強いCだからこそ、事が起きたあとのダメージはデカいだろう。

そう呟いて俺はほくそ笑んだ。

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