第9話 好印象タレント【C】

警察に駆け込んだ後は、ホテルの上司に電話1本入れたなら女の仕事はほぼ終わり。家で風呂でも入って寝てりゃいい。



慌ててホテルの上司やオーナーが飛んでくるのが早いか警察がターゲットを引っ張るのが早いかは分からないが…どの道、ホテル内は蜂の巣をつついたような騒ぎになるだろう。



ターゲットが引っ張られたのを確認したら、あとはヒモくんに頑張って貰えばいい。


ただヒモくんに注意を促すように女に伝えたのは、決して手だけは出さない事だ。

コレには俺も苦い経験があるからな。



まずこういうケースなら必ず弁護士が示談を勧めてくる。

本人的には納得がいかないだろうけど、強姦はかなりの重罪だ。いくら本人が、合意だったと言ったところで残念ながら訴えた者勝ち。


そんな時に、示談が成立してるかどうかは重要だ。執行猶予やら保釈やら、関わって来るからな。

とりあえず、ヒモくんと手が切れた後の女の未来に幸あれと心の中で願ってみた。




ひとつ仕事が片付く毎に、俺はヤサを変える。スマホがあればできる仕事だから、同じ場所に留まる理由は無いからな。


少しの荷物を鞄に詰めると、チェックアウトを済ませ、少しだけ歩く。

流しのタクシーを捕まえると、事前に予約して置いた新しいヤサに向かう。



乗り込んだタクシーの中で、いきなりスマホが震えた。情報屋からだ。


『うん…?え!………そうか分かった』

引き続きの調査だけ依頼して、俺が通話を終えた時、タクシーが丁度、目的のホテルに到着した。


チェックインを済ませて部屋に入る。

荷物を放り出して、そのままベッドに倒れ込んだ。


『ウーン………』

思わず声が出た。

今度の案件は少々特殊なんだよなぁ…


今までの仕事は、簡単に言えばポスト狙い。

今、良い立ち位置の奴を蹴落として、自社のタレントをその位置に置くっていうね。


でも今回のは完全に私怨。

その事務所にダメージを与えたい。でもそれが結果としてその事務所じゃなく、自社に仕事が回ってきたらって、計算も無くはないだろうけど……



あの事務所を恨んでる、タレント事務所はかなり多い。

人気者をたくさん抱えてる事務所だから、その事務所の売り出し中のタレントと被るタレントを使うことで、その事務所の数字持ってるタレントを、引き上げられたら困るのは結局テレビ局だ。

事務所の圧力と言うより局の忖度だな。




その事務所のキラキラアイドルに罠を仕掛けても、所詮使い捨ての駒に過ぎないし、ガチのファンは気にもしないさ。


それに俺自身も1度だけ、あの事務所には煮え湯を飲まされてるしな……



それより、事務所的に古参や中堅辺りに狙いを定めて、下調べを進めていた所だ。


しかし、そのクラスになると、結婚してるか特定のパートナーがいる。

特定のパートナーがいたりすると、女を差し向けても嫁からの縛りが強いから、なかなかなびかないケースがほとんどだ。



そんな時に飛び込んできた、ターゲットの1人の離婚。嫁や子供と離れて寂しい気持ちを利用して、懐へ飛び込ませてもらう。

もっとも、懐に飛び込んだ女は刃を隠し持ってるけどな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る