第8話 2世タレント【B】③
スポーツ新聞とワイドショーを交互に見ながら、頬張ったサンドイッチをコーヒーで流し込んでいると、俺のスマホが鳴った。
『成功報酬の準備ができたから』
そう告げる依頼主の声は弾んでいた。
タクシーを手配すると、簡単な身支度を済ませる。そして空のリュックにさっきまで読んでたスポーツ新聞を入れて膨らませたら、ソレを担いで部屋を出た。
泊まってるホテルの前には、すでにタクシーが待機していた。
目的地に着くと『20分程度で戻るからこのまま待っててくれ。チップは弾むから』と告げ財布から万札を渡した。
受付で『吉良ですが…』と名乗ると、すぐに応接室に案内された。
部屋にはえびす顔の依頼人が待っていた。そして彼の前のテーブルには報酬の入ったアタッシュケース。
俺はリュックを降ろすと、中に詰めた丸めた新聞紙を取り出し、替りにアタッシュケースの中の札束を突っ込んだ。
どこぞの政治家の言葉を借りるならコンニャク20個分って事か…
『ケースごと持ってて良いんだよ』
そう言う依頼人に『あ、じゃあ次回のご依頼時に…』と言ってはぐらかす。
GPSとか仕掛けられてる可能性はゼロじゃないからな。
事務所を出て、待たせていたタクシーに乗り込む。
約束通りチップを弾むと『今日1日、お供しますよ』と言ってくれる。万札を振ってタクシー停めてた時代もあったのにな……
運ちゃんの好意に甘えて、数店の銀行に立ち寄って得た収入を複数の口座にぶっ込んだらまっすぐホテルに向かう。
寡黙な運転手で助かる。
『お仕事なんですか?』とか詮索されるのは好きじゃないし『あ〜殺し屋だよ』とも答えられねーしなw
ホテルに向かう車内で目を閉じていると、さっきの依頼人が言った『どんな手口を使ったんですか』って言葉を不意に思い出す。
『企業秘密ですよ』そう言って誤魔化したけど…そんな大層なものじゃない。
あの日、俺は女に就職の斡旋をしただけだ。
そう、今回の舞台になったビジネスホテルだ。
最近は〚ライフスタイルが〜〛って理由で夜勤のシフトを嫌がる傾向にある。
そんな時に銀座仕込みの接客スキルを持った、品の良い女が夜勤専門で働きたいなんて来たら誰でも『明日からすぐにお願いします』だろ?
それから数週間後に、ターゲット御一行が来る訳だ。ビジネスホテルだから当然飯は外で済ませてからのチェックインになる。
ターゲットにカードキーを渡す時にでも、ワザと手が触れるように渡して、頬のひとつも赤らめたらスタートだ。
事前にターゲットの部屋は分かっているから、チェックイン前にそこに置いてあるアメニティを回収しておく。
アメニティが無いことに気づいたターゲットが、フロントに電話をしたらゴングが鳴る。
『不手際で申し訳ありません』と女が部屋にアメニティを届ける。
『実はファンなんです』とか言って部屋に入る。ここでチェックインの時の対応に、合点がいったターゲットを女の蜘蛛の糸がからめとる。
親に甘やかされ、この世界に入ってからも、親の七光りでぬくぬくしてたぼんぼんなんか、赤子の手をひねるより簡単だったろう。
あとは、事が住んで部屋を出たら真っ先に警察に向かう。
『あの私…無理矢理レイプされた』とね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます