第7話 2世タレント【B】②

俺は帰りのタクシーの中の女に、親指を立てて片目を瞑って見せた。

女は『じゃあまた明日』と笑顔で手を振る。


俺は女の乗ったタクシーが見えなくなったと同時に、依頼者に電話をかけた。

この世界は意外と狭い。

例え消したいライバル社のタレントだとしても、相手の行動なんかは、手に取る様に簡単に分かっている。

『ふんふん…北関東の…あ〜なるほど…じゃあ制作会社が…はいはい、じゃあホテルはあそこでしょうね…じゃあまた急な変更あったら…はいはい…』



この会話だけでは、絶対分かりっこないって分かってるけど…それでもついつい口元を隠してしまう。


通話ボタンをオフったら、すぐに目的のホテルのホームページに飛ぶ。



バブル期には映画の撮影ともなれば、スタッフはともかくタレントはそれなりの部屋に泊まったもんだ。


それが今じゃ、タレントもスタッフと同じビジネスホテルってんだから悲しいねぇ…


案の定、そのホテルのホームページには【スタッフ急募】の文字。

地方のビジネスホテルに、俳優含めた映画スタッフが連泊するとなれば、それなりの人員を集めなくちゃいけないからな。



翌日、店に出勤するフリをして、俺の話を聞きに来た女は、昨日と違ってイキイキして見えた。



『君は美しい。しかも品もある。でもこの先10年も、今の仕事を続ける気かい?』

女の目が泳ぐ……やはり先の事は不安なんだろう。

『とりあえず君は男と手を切りたい。でもそれなりに情もあるからさっさと捨てる事も出来ない。違うかい?』


大きく見開いた目を俺に向けると、涙を1粒落とした。


『ある程度まとまった金を、男に手切れ金として渡す。君もそれなりの金を手にする。男がその金をどうするかは分からないが…数ヶ月で使い切ったとしても、その間に君は姿をくらまして、それなりの店でも始めたらいい』


『そんな夢のような事…簡単にいくかしら』

不安げに呟く女の肩を抱きながら、俺は言った。


『まぁ…それで上手くいくかどうかは俺にも分からない。でもいかなかったらその時はまた力になるからさ』


とりあえず俺の計画を口頭で伝え、女にメモを取らせた。

証拠は絶対残さない。それが俺のスタンス。



俺の語る台本をノートに書いている内に、女の不安げな顔がみるみる内に勝利を確信した顔に変わる。

『やっぱり女は怖えーや』

そう心の中で呟いた。




それから2週間ほどが経ったある朝、スマホの着信音で目を覚ます。

テレビのワイドショーを見ろと俺に告げたのは今回の依頼人。

昨夜の酒の抜けきらない身体を起こして、テレビを付けた。


お決まりの朝のワイドショー

だが画面にはデカデカとターゲットの名前と強姦で逮捕!!の文字。


『なぜこんな事が…』とか『親である大物俳優の心中はいかばかりか…』なんてコメンテーターの綺麗事を聞きながら着替えると、スポーツ新聞を買いにコンビニに向かった。

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