第6話 2世タレント【B】
3軒目の店で、ようやく俺のメガネにかなった女を見つけた。
美人でスタイルもいい。しかも接客も品が良いのだ。正直こんな店には勿体ない。
『この店の前にどこかにいたの?銀座とかによく居る感じするからさ』
その言葉に少しはにかんだ様に『少し前まで銀座のMで勉強させて頂いてました』と笑顔を見せた。
『それなのに、なんでこの店?』そう言いかけた言葉を飲み込んだ。まだ時期尚早だ。
3日続けて通って、それなりに金を落とした頃、女を店外デートに誘ってみる。
さすがに女もNOとは言わなかった。
近くの寿司屋に入って好きな物を注文させてみても、女は玉子だとかコハダなんて安いネタばかり頼んでいる。
薄々分かっていたから俺は大将に『お土産にしたいから帰りまでに特上2つ作って』と声をかけると女に向かって『待ってんだろ?』と言って親指を立てた。
一瞬ハッとした顔をむけたけど、すぐに黙って頷いた。
銀座から落ちてくる女は大きく分けて3種類。
太客に売り掛け残して逃げられたか、ヒモ付きか、あるいは子持ちだ。
俺は立てた親指を折り、代わりに人差し指と中指を頬に斜めに滑らせた。
それを見て女は大きくかぶりを振ると『ただの怠け者のチンピラよ』と吐き捨てるように言った。
銀座で働くってのは、夜の蝶にとってはステータスだ。
もちろん業界の中でも実入りはダントツに良い。じゃあなぜ金のかかる男が居るのに、その場所から離れるのかって?
確かに給与こそ高いけど、それなりに費用もかかるのが銀座って場所だ。
店も高級、客も目が肥えてると来たらドレスだって安いものは着られないし、頻繁に新しい物を着なくちゃ店から注意を受ける。
定期的に行われる着物イベントとかでも、それなりの着物や着付けに美容院代。
常連のお客への誕プレやバレンタインのプレゼント……
要は収支が見合わないのが、銀座って場所だ。だから銀座で登りつめるには、みんな太いスポンサーをつけて、いつか店を持って初めてプラスに転じるって感じだ。
だからスポンサーを持てないヒモ付き女は、先の展望より目先の収支を考えて、銀座から新宿、新宿から池袋と下流へ下るって訳さ。
続いて女は俺の仕事を聞きたがった。
俺は名刺を差し出す。
〚風俗ライター 浅野 工〛
ハッとした顔をして俺を見たあと『私の事を記事にしたいんですか?』そう言うと、少し怯えたように目を泳がせる。
『そのつもりだったけど…嫌なんだろ?』
君の事情は分かってるよと、言わんばかりに優しく頷いてやる。
潤んだ女の瞳から、この女が完全にこちらの手駒に落ちた確信を持った俺は、彼女の耳元でそっと囁いた。
『これから言うことは…夢物語とでも思って聞いてくれ』
そう言って、女の手をそっと包んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます