第4話 若手俳優【A】 ②


『今も以前と同じお仕事?』

2匹目のドジョウを狙ってるのがアリアリと分かる目で、俺に笑顔を向けてくる。


『いや、あまりにも儲からないから、最近はプロモーターのパシリみたいな感じよ』

そう言って、今回の為だけに作った〚パーティコンサルタント大内 豊〛って名刺を渡す。


日本人って不思議だよな。

こんなパソコンでいくらでも作れる名刺なんてもんを、信用するんだからさ…


『パーティコンサル……?』

不思議そうな、それでいて自慢げに長いまつ毛が目立つ様に、上目遣いで俺を見た。


『そう。まぁ人材派遣みたいなもんよ』


俳優やタレントとはいえ、男ならみんな遊びたいもんだ。とはいえキャバや風俗店に入る姿を激写されたら、今売り出し中のタレントにはかなりのダメージになってしまう。


だから、プロモーターやテレビ局のADなんかはパーティルームを貸し切り、酒と女の子をデリバリーして接待するのが当たり前になっている。

『そこに接客してくれる女の子を、派遣するのが俺の仕事ってワケ』


『へーすごーい!』

『なんにもすごくないよ。単なる便利屋さ』


そう言って笑ったあと、さも今思いついたかのように話を切り出す。


『あ、そういえば【A】って若手俳優知ってる?』

女は『もちろん』と首を大きく振った。


『いや〜今度さ、彼が連続ドラマのヒロインの相手役をやる事が決まってね〜』


このドラマはいわゆる国民的ドラマで、これに出るってことは、ファン層も一気に拡大するのは間違いなしってドラマだ。

その大仕事で時間的に拘束される前に、仲間内ではしゃごうって話しになっている。

ここまでは本当の話。俺の情報網なら簡単に手に入れられる情報だ。


もちろんその中の1人に鼻薬を効かせて、この女を加える手はずはすでに出来ている。


『いやぁ実はさ、Aの好みの子を連れてきてって頼まれてるんだけどね』

そこまで言ってから、急に顔を顰(しか)めてみせる。つられて女も、急に不安げな表情に変わる。


『君ならピッタリだと思ったんだけど…でもほら君、まだJKでしょ?さすがにまずいよなぁ……酒の席じゃさ』


本当はとっくに高校も中退して、しかも子供まで居ることを知らないフリして『せっかくだから紹介したかったんだけど…』と、わざとらしくため息をついてみる。


『大丈夫よ!』

女はそう言って俺に笑顔を向けてきた。


『こう見えても私、年を誤魔化してラウンジでバイトした事もあるし…』


その言葉にホッとした顔を向けつつ、こう加えるのも忘れなかった。


『じゃあ先方には20歳の女子大生って伝えとくよ。だからくれぐれも年の事やJKって言わないようにね。これがバレたら億単位の損害賠償になりかねないからさ!』


『はーい!』

女が頭の中で、そろばんを弾く音が聞こえた気がした。

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