第2話 きっかけ


ベッドで女の浴びるシャワーの音を聞きながら煙草に手を伸ばしたが、灰皿がないことに気づいてやめた。

最近はどこもかしこも禁煙だ。


いつの間にか、住みにくい世の中になったもんだ。


嫌煙家にしてもLGBTQにしても、弱者は弱者という鎧を纏って強者を倒す。

反論どころか言い訳さえ許されず、強者は地の底へ落ちて行くのだ。

まぁそのおかげで、こんな俺でも食っていけてるんだがな。




俺の殺し屋稼業を詳しく知りたいかい?

自分の脳内のオーディエンスに、向かって独りごちた。



殺し屋になる前…当時の俺の名刺の肩書は、フリージャーナリスト。

そう聞くと、政治家の不正を暴くみたいなものを想像するかも知れないが、そんな正義感なんてハナから持ち合わせちゃいない。



はやい話しがタレントのスキャンダル専門。


繁華街で遊んでる女の中で、男好きするタイプの子に名刺を配っておく。


夜の盛り場は意外と世界が狭いから、チョイチョイ若手俳優やアイドルとネンゴロになってくれる。

特にアイドルってヤツは脇が甘い。

だから女に寝顔を撮られても気づかない。

その写真を2、30万で買ってやれば、俺は適当なラブストーリーをくっつけて、写真誌に100万ぐらいで売り込むって寸法だ。



だがそれも長くは続かなかったな。

90年代初めはまだまだ需要が有ったが、いつの間にかファンの意識が変わってきた。

「あんな素敵な彼に女の1人や2人当たり前じゃないの!どうせ遊びなんだし…」


ついこの前まで、共演女優とのキスシーンですらギャーギャー喚いていたくせに、いつの間にか、理解ある本妻の様なスタンスをとり始める。


そうなると雑誌が売れないから俺へのギャラも激減し、手駒の女を使ってスキャンダルを作るのも難しくなっていった。


仕方なく、自力でスキャンダルを狙っていったが、労力とギャラとの折り合いがつかない。コスパが悪いってヤツだな。



そんな時、ある人物のスキャンダルが目に飛び込んできた。

そうネットで騒がれたあの事件。

それが今の仕事を始めるヒントでもあり、きっかけでもあったんだ。




とある政治系ジャーナリストがいた。

一般人には知名度は低いが、著作物も数多く出している彼は、この世界はもちろんだが政治家には抜群の知名度だ。


そんな彼が強姦罪で訴えられたのだ。

もちろん本人は合意の上だと強く言ったし、行為の翌日に、女性から送られたウキウキしたLINE等も公開した。

これで一件落着かと思われたはずが……

相手の女性のバックにいわゆる女性解放団体がついたのだ。

ジャーナリスト側が出した証拠のLINEすら『被害女性は怒りをあらわにして付きまとわれるのが怖かったんです!』なんて言いながら、記者会見で泣く女の肩を強く抱いた。



まぁ、この件に関しては、いまだにすったもんだしているらしいが……



それを参考にして色々な手を使って…

なおかつ、自分の手は汚さずに…

ターゲットをとことんまで抹殺する。


その日から俺は【吉良】という名前に変え、営業と手駒を探す活動にシフトした。

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