女衒-ZEGEN-

恭梨 光

第1話 プロローグ

朝、腕の中で眠る女の、甘ったるいシャンプーの香りで目を覚ます。


お世辞にも、高いシャンプーとは言えない安っぽい香り……

あまり生活は豊かではないのだろう。



『この後、アフターどう?寿司でも食ってその後は……』

そう言って俺は指を4本立てた。


ぶらりと入ったキャバクラで、俺の隣に座ったこの女。

暗い店内でも分かる程度には中々の上玉だ。

コロナ禍で収入減でもなきゃ4万程度で靡(なび)かなかっただろう。


ハーフタレントだと言ってたっけ?


最近ではハーフタレントのバブルも弾けて、余程頭の回転が早く弁が立つとかの、いわゆるキャラが立ってなきゃ需要はない。

まぁ、そのおかげで俺も久々に、濃密な夜を過ごせたわけだ。



マジマジと女の顔を見ていたからか、急に女が目を覚ました。

『ん…んん…おはよ…なーに?人の顔を穴が開くほど見たりして…』


『いや、中々可愛いなぁって…』


お決まりの褒め言葉に笑顔で照れる。

まだこの仕事を始めて日が浅いからか?

褒められ慣れてないんだろう…照れ隠しからか急に饒舌になる。


『そう言えば貴方ってお仕事何してるの?このホテルの部屋も自宅がわりに常宿にしてるんでしょ?でも見た感じ社長さんって感じでもないし……』


『あー俺の仕事?それは…』



そこまで言った時、ベッドサイドに置かれた俺のスマホが震えた。

見知らぬ番号に警戒しつつ電話に出る。


電話口で名乗った相手に『なんで俺に⁈』とか『本物かよ?』と思いながらも自然に背筋が伸びる。


相手からの要望を聞きつつメモを取り、スマホを置いた。


『お仕事?』

『うん、そうそう!俺の仕事は殺し屋だから、次のターゲットの依頼だよ』

そう言って手でピストルを真似る。



『えー怖ーい〜♪』

鼻にかかった声でおどける女の、頬に浮かぶ白人特有のソバカスもまた可愛い。


『でも今のターゲットはお前だけどな。もう一回殺してやろうか?』

我ながらクサイ台詞を吐いたなと思いながら、女の待つベッドに飛び込んだ。




女は全く信じてないけど、俺の仕事が殺し屋ってのは真実。

とは言え血は全く流さない。

 

でもターゲットにされた方は殺された方がマシって思ってんだろうけど………

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