第6話 聖女・キアナと謎の盗賊・オフェアリス

 ホルスは闇に覆われた空ではなくキアナの方を向いている。


 ホルスがベンヌに命じる。


「ベンヌ!! キアナを浄化しないさい!!」


 そういうとベンヌはキアナを浄化の炎で焼き払い灰にした。


 灰から新たな生命が誕生しキアナの心は浄化された。


 浄化された時、魅惑の都市で増幅された力が全てキアナに受け継がれた。


『聖女・キアナ』が誕生した瞬間である。


「ふーん、ダメなママのくせに生意気な魔力ね。前よりも強力だわ。」


 キアナⅡが皮肉を言うとキアナは天に向って杖を構えた。


 魔力が膨張し続けて今にも破裂しそうである。


 危機感を覚えたゾークは叫んだ。


「や、やめろ!!」


 しかし、その圧倒的な魔力はゾークの闇に向かって放たれる。


「ファステート・ゼロ!!」


 キアナの魔力が膨張し、留まれなくなり大放出される。


 その圧倒的な魔力で上空の闇が消し飛ぶとエクゾディアの左腕が落ちてきた。


 キアナは魔力でそれを浮遊させると丁重にホルスの下へと返してくれた。


 ホルスが礼を言うとベンヌは抑えきれないキアナの尽きぬ欲望を吐き出してしまった。


 不完全とはいえ、あのゾークを退けたキアナの欲望を浄化する力がベンヌにはなかったのだ。


 すっかり元通りとなったキアナは己の過ちを克服するために鍛錬に励むのかと思ったが、研究員に対策を命じた。


 研究員は様々な仮説や数式をたてて実験を繰り返していた。


 ホルスはその様子を見て戸惑いながらも言う。


「と、とりあえず、ゾークの支配はもう、う、受けない………かな?」


 キアナが余りにも変わった人だったために、不安なようで頼もしいような気にもなった。


「バカね。人間が努力したってどうしようもないわ。それなら、科学に頼ったほうがいいでしょ? どうせ、ママは己の欲望に勝てないダメ人間なんだからね。」


 キアナⅡが言うとそれも一理あると思ってしまった。


「その通り、貴様ら人間は己の欲望にも勝てぬ存在、キアナ、貴様はまた必ず取り込んでやろう!! ふっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」


 ゾークの声が点から鳴り響けば、4つの影が四方に散らばった。


「あれは一体………」


 キアナⅡが呟けばゾークは言う。


「あれは我が腹心、闇の四神だ。エクゾディアの力の一部を取り込み、我が同某は、貴様らごときに倒せはせん!! せいぜい足掻くことだな………はっはっはっはっはっは!!」


 キアナはホルスたちが旅立つときに約束をしてくれた。


「我が国の研究が成功した時、地球の人間はゾークの支配を受けることもなくなるでしょう。それと、キアナⅡを頼みましたよ。」


 キアナⅡは言う。


「こんな国に帰るつもりなんて無いわ。あたしの名前はこれからレイチェルでよろしく。後継者は妹にでも任せればいいわ。さよなら。」


 キアナⅡはレイチェルと名乗り、魅惑の都市を出ていった。


 ホルスとまどか、レイチェルは一度に3つの国を制覇することとし、それぞれの国に向かうこととする。


 レイチェルは最も強い闇の神にホルスを向かわせ、自分が2番めに強い闇の神へと向かった。


 まどかは一番弱い闇の力を持つ国へと向かわせた。


 レイチェル曰く、一番不安なのはまどかだとのこと、まどかは無論反対したが、レイチェルの魅力に逆らえず、渋々従った。


 闇が降り注いだ国、一つは黄金の国、一つは太古の国、一つは正義の国、一つは暴挙の国、無論、最も闇が強いのは暴挙の国、そして、一番闇が弱いのは太古の国である。


 しかし、レイチェルは大きな過ちを犯してしまっていた。


「弱い。弱すぎる………」


 最も楽な任務だと思われていたまどかが一瞬でやられた。


 ゾークは闇の支配者、闇の世界にも当然弱いやつが居れば、賢いやつもいる。


 そして、一番侮ってはいけない相手にまどかを当ててしまった。


 レイチェル本人が行くべきだっただろう。


「エクゾディアの力を一部手に入れたゾーク様、こいつに支配を………」


 まどかはゾークの支配に落ちてしまう。


「ふふ、さて、せっかくだ。私を侮ったレイチェルとか言う女にこいつをぶつけてやる………私はこのままホルスを狙います。」


 闇の軍師、イスフェトが最も危険視すでき敵である。


「それにしても、面白い存在だ………貴様の力を完全開放してやろう………」


 イスフェトはまどかを覚醒させる。


 まどかは闇まどかとなり、闇の従僕となってホルスたちの襲撃へと向かった。


 正義の国には、マアトがいる。


 マアトは正義の女神と呼ばれ、ゾークの支配に落ちるような愚かな女神ではない。


 しばらく放置しても大丈夫だろう。


 寧ろ、ゾークの刺客を逆に成敗してしまう可能性もある。


 そして、黄金の国では、レイチェルが手を焼いていた。


「ま、全く、私が間抜けだったわ。一番侮ってはいけないのは、一番弱いやつだったなんてね。」


 闇まどかがレイチェルの背後を抑えて言う。


「イスフェト様は貴様のような間抜けな軍師ではない。一番弱いヤツにも全力を尽くす。レイチェル、あの世で悔いるがいい。闇の召喚、上杉 芯!!」


 まどかの切り札でもある上杉が召喚された。


 エクゾディアの力を一部得たゾークに表の世界を支配することは容易い。


 上杉はゾークの支配によってレイチェルに牙を向ける。


「レイチェル………闇の支配者をお招きするため、貴様を殺す!! 零!!」


 上杉が零を使えば、誰も上杉を認識することができない。


 上杉が刃物を手に取りレイチェルに歩み寄る。


 レイチェルは上杉が近寄ってきても認識ができない。


 絶体絶命の時、レイチェルの召喚戦士がそれを阻止した。


 その召喚戦士は桜井 隼人(クリスタルバスケ75話を参照)である。


 桜井は野生の嗅覚を持ち、それを手がかりにして上杉の居場所を割り当てる。


「面白い………貴様とは生前での決着をつけてなかったな………」


 数学者や天才は寝ている時に数式を導き出し、明暗を思い浮かべる。


 人が眠る時こそ、体の機能は停止し、脳だけが脳のために働くことができる。


「『完全睡眠』………この俺が『完璧』と呼ばれた意味をお前たちは体感することになる………」


 上杉が完全睡眠となれば脳機能が100%となる。


 それは、脳の処理速度が向上し、最高のものとなる。


 脳の処理速度が最高となれば、PCでいうと1ランク上のCPUを搭載することとなる。


 それが何を意味するだろうか?


 簡単な礼を出すならTASという動画がわかりやすいだろう。


 TASとは、動画で完璧なプレイを魅せてくれる。


 とても人間ではできないような動き、そして、非の打ち所ない完璧な動き、他にも例を上げるならチーターだ。


 チートを使えばFPSの世界では銃を避けたり、適当に打つだけで敵の頭を確実に撃ち抜く、そういう完璧な動きが可能となる。


「召喚!!」


 レイチェルが上杉を止めるために数多の戦士を召喚する。


 零でも十二分だろう。


 しかし、上杉は気まぐれで零を使わず、対等に戦う。


「流水の極意!!」


 上杉の乱れぬ動きと完璧な処理能力で四方八方、全方向すべての攻撃を鮮やかに返していく。


 刃が無数に飛んできて銃弾も飛び交う中で適切な対処を熟す。


 その上杉の姿を見てレイチェルが驚愕する。


「な、なんて無駄のない動きなの!!? こ、こんなすごい召喚戦士がいながら、まどかが負けたってこと!!?」


 そう、この完璧な存在が破れてしまった。


 イスフェトを倒すとなると、それを超えなければならない。


「か、勝てない………私の失策よ!!」


 絶体絶命となったレイチェルに上杉がトドメを挿そうとする。


 桜井は深くにももう一人の闇の神に足止めされてしまう。


 上杉の斬撃は誰にも認識できない。


「危ない!!」


 桜井が叫ぶもレイチェルの耳には届かず、刃が振り切られる。


「おっと、危ない危ない………いけないな。こんなかわいい女の子に刃を向けるなんて………」


 突然、現れた一人の男、その男には上杉の動きが見えていた。


「ば、馬鹿な!!? な、なぜ、俺の攻撃が!!? そ、それは!!?」


 上杉が男の額を見て驚く。


 同じだった。


 エジプトには、4000年の叡智がある。


 男の手にはよく知る刃物が握られていた。


「ば、馬鹿な!!?」


 そう、それは上杉が使っていた刃物だ。


 あの『完璧』な上杉からナイフを奪い取った。


「き、貴様は一体………!!?」


 上杉が聞けば男が答える。


「俺の名はオフェアリス、ただの泥棒さ………」


 レイチェルはオフェアリスにお姫様抱っこされたままで胸をきゅんきゅんさせてしまっていた。


「Pn=limΣθX………limHitR………」


 オフェアリスが上杉の数式を聞き、上杉の方を向く。


 上杉の脳がオーバーヒート、脳がショートを起こすと上杉は片手で頭を抑えた。


 かつて、この姿を見せた男が居た。


 浅井 勇気(クリスタルバスケ76話付近参照)という男が、エジプト4000年の歴史を一人の人間が解明しようとしているのだろうか?


 普通の上杉ならそんなことはしないだろう。


 しかし、闇に囚われた上杉では、やりかねない。


 そして、もし、上杉がエジプト4000年の叡智に近づいたのなら、オフェアリスも簡単に勝てる相手ではないだろう。


「うおおおおおおおお!!」


 上杉が雄叫びを挙げる。


 それは悲鳴のようにも聞こえた。


 上杉が苦しそうにいう。


「………か、解明したぞ………ぐうぅ!!?」

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