第5話 魔鴉のモリガンとキアナの娘

「よくも………よくもよくもよくもあたしを傷物にしてくれたな!!」


 モリガンの姿が変貌していく。


 赤いドレスを身に纏う美女から失った体は鴉のように変貌していった。


 漆黒の翼を背に生やし、真の姿を露わにする。


 モリガンは伝説では二槍を持ち、鴉が戦場を駆けたとか、空を跳べば張郃に向かって急降下する。


 武人において、背後頭上を取られることは敗北を意味する。


 制空権を持たない張郃に攻撃手段はない。


 なんとか攻撃を捌くも、空から舞い散る漆黒の羽が張郃の視界を奪う。


「ぐッ!!?」


 魔槍で切り裂かれる肉体、しかし、張郃は魅了されない。


 例の薬によって異性への愛を感じないからだ。


 キアナの支配から守るために作られた薬は、キアナを助けるために使われている。


 キアナはその薬で魅了された男たちを正気に戻していた。


「さぁ、これを飲んで!!」


 正気に戻った男たちはキアナの魅力に支配される。


 そして、懺悔した。


 ホルスの言う通り、皆がキアナに心服していたのである。


「お、俺はなんてことをしてしまったんだ!!」


 皆がキアナを裏切ったことに戒めを受けている。


 キアナは己の招いた災と思い、男たちは己の無力さを嘆く。


 そして、張郃がモリガンの石化の魔槍をへし折ったために、宝石となった男たちは元の姿へと戻っていた。


 しかし、張郃がモリガンに苦戦を強いられる状況は変わらない。


「くッ!! まさか、空を飛ぶとは………!!」


 防戦一方で漆黒の羽が舞、太陽の光にも照らされた。


 張郃は次第にモリガンの攻撃を捌けなくなり、モリガンは遊び始める。


「あっはっはっはっは!! 張郃、貴様よく見るといい男だな。どうだ? 私のことをモリガン様と呼び、使えるなら寵愛してやるぞ?」


 張郃はモリガンの欲望に従う気はなかった。


「拙者は武人、貴女は女、女に屈するなど、武人として恥だ。武人は戦場で死ぬことこそ本望!!」


 張郃は死を覚悟していた。


 モリガンは張郃の命を惜しんでしまう。


「な、なぜだろうか………とても殺したくないわ………」


 そんな時、一人の少女が現れた。


「何やってるの?」


 皆がその少女に頭を深々と下げて称える。


「キアナⅡ………」


 キアナには、キアナⅡという娘が存在した。


 無論、キアナの娘は数え切れないほど存在する。


「キアナⅡ………生きてたの?」


 キアナはモリガンによってすべての女が殺されたと聞いていた。


 しかし、キアナⅡは生きていた。


 キアナⅡは言う。


「随分な言い方ね。母親としてどうかと思うは………」


 全くではあるが、今はそういう状況ではない。


 モリガンは驚く。


「そんな馬鹿な!! この魅惑の都市に女は私とキアナしかいないはず!!」


 キアナⅡが変装セットを取り出すとそれを身に着けては信じられないイケメンになってしまっていた。


 それを見たモリガンは驚いてしまう。


「ま、まさか、お前が女だったなんて!! あれ? もしかして、私ってすっごいもったいないことをしてたの!!?」


 モリガンが深くにも女性の男装に目覚めてしまった自分に気が付いてしまったのだ。


「当たり前でしょう? ついでに言うなら、この魅惑の都市の女は私の趣味で男装にしてるから他にも生きてるわよ。みたいの?」


 モリガンは躊躇った。


 己の欲望のために殺してきた女性、しかし、その女性が異常にもかっこよく返信してしまった。


「そ、そんなもの!! み、認めたくないわ!!」


 モリガンが欲望で否定するも目の前の事実に屈服している己が存在していた。


「どうでもいいけど、僕の言うこと聞いてみない?」


 キアナの魅力が異常ならば、キアナⅡの魅力も別次元で異常なものがあった。


 モリガンはその魅了にすっかり虜にされてしまったのである。


「キ、キアナⅡ様………き、聞かせてください!!」


 モリガンはキアナⅡの言いなりになり、キアナⅡはライトを取り出してモリガンを脅迫した。


「きゃッ!!? 眩しい!!」


 鴉は光りに弱い。


「もう悪いことはしないかい?」


 モリガンは初めての調教を受けることとなる。


「い、嫌です………♡」


 口では嫌と言っているも女を殺すことができない。


 なぜなら、キアナⅡは余りにもイケメンであり、女性としての魅力も高く、モリガンは何をされているのか分からなかった。


 キアナⅡは言う。


「死刑!!」


 モリガンは驚いて思わず声を出す。


「え?」


 キアナⅡが容赦無くモリガンの首を切って落とした。


「キアナもママと同じで、欲望に負ける人が嫌いなの………」


 モリガンの断末魔が上がると暗黒の空が晴れていく。


 キアナⅡが言った。


「あんたエクゾディアを扱うのにあんな雑魚に負けたのね?」


 そう、キアナⅡは天才少女であった。


 鴉の弱点は全て知っているし、モリガンの肉体が消え去る前にキアナの腕を軽く切るとその傷はモリガンにも同じ傷ができていた。


 それを見せつけられたホルスは驚いて己の浅はかさを憎んだ。


「ま、まぁ、あんた一人だとエクゾディアが心配だわ………私がたびに同行してあげるから安心しなさい。」


 キアナⅡの言葉にホルスは感激した。


「うん♡」


 まどかは嫉妬していう。


「だめよ!! だめ!! ホルスは私と二人で旅をするの!! だ、だからね………うぅ。」


 しかし、キアナⅡはキアナと違って信じられないくらいイケメンであった。


「だからなに?」


 まどかは顔を真赤にして言う。


「こんなのずるいよ~~~!!!」


 キアナⅡは言う。


「あんたって本当にだめね。」


 キアナⅡがジト目でまどかを見下ろしながら少し笑みを浮かべるとまどかは心を撃ち抜かれてしまう。


「ありがとうございます♡」


 キアナⅡが駄まどかを他所にキアナとホルスに言う。


「それよりもモリガンがゾークを退けたのなら早くあの闇を葬ったほうがいいわよ。」


 ホルスとキアナはキアナⅡが何を言っているのか意味が分からなかった。


 まどかが手を上げて言う。


「キアナⅡ先生!! 闇を葬るってどうやるんですか!!?」


 その質問にキアナⅡが深々とため息を付く。


「ゾークを退けたのはモリガンだけど、モリガンを生み出したのはママよ。だったら、さっさとこのダメなママを回復させて、あの闇を振り払えばいいじゃない。」


 簡単に言ってくれるキアナⅡに対して、やっとホルスが気付く。


「そういうこと!! キアナⅡってすごい!!」


 ホルスが素直に褒めるとキアナⅡも悪い気分ではない様子だった。


「お世辞はいいから、早くしなさい。でないと、あんたのエクゾディアも不完全のままになるわよ?」


 ホルスはキアナⅡに従って、再びベンヌを召喚して言う。


「これからエクゾディアの左腕を救出します!!」


 まどかは小首を傾げて言う。


「あの、あの、どうやって助けるの?」


 キアナⅡがまどかの耳元でヒソヒソと教えてあげる。


 それを聞いたまどかは絶賛する。


「キアナⅡって天才だね♡」


 キアナⅡは顔を真赤にしてそっぽを向いた。


 素直に褒められると弱いようだ。


「くっくっく、このゾークを葬り去るだと? やれるものならやってみるがいい。何をする気か知らんが、貴様らには何もできない!! 大人しくエクゾディアを取り込むとこでも見ているがいいわ!!」


 ゾークが本気になってエクゾディアの左腕を吸収しようとする。


 必死に抵抗する左腕は重症を負っているために長く持ちそうにもない。


「待ってて!! 今助けるから!!」


 ホルスが構える。


 一体、どんなことをして上空の闇を吹き飛ばすのだろうか?


 次回、キアナⅡの策略が明かされる。

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