第4話 二槍のモリガンと二槍の英雄

 モリガンによる魅惑の侵略に抗える者は居なかった。


 女に弱い英雄気取りの猿も名ばかりだけ、本質が猿である以上、モリガンの魅力には無に等しい。


 次の日には、すべての男が行列を作っていた。


「なんというイケメンなの………合格、あなたは生きてた方が美しいわ。次の者は醜いわね。死になさい!!」


 モリガンは男を並べて点数を付け、高得点の者には生きることを許可し、不細工には容赦なく魔槍で一突き、宝石に変えられてしまった。


 無論、この一方的な虐殺に、生き残った者達はモリガンに感謝した。


 顔が良くて醜態を晒す男共の嫉妬により、才能を発揮できない天才も多かった。


 しかし、こんな奴もいる。


「ふざけるな!! 俺はお前なんかに屈したりはしない!! お前に屈するくらいなら死んだ方がマシだ!!」


 モリガンにとって最高の獲物だ。


「ふふ、かわいいのね………嫌と言われれば恋は燃えるものよ。あなたのことがますます欲しくなってしまったわ。魔槍はもう一本あるの………」


 石化の魔槍で貫かれた者は宝石となり、魅惑の魔槍で突れた者はモリガンの虜にされる。


 しかも、モリガンは魅惑の魔槍で貫かれた男を特に好んだ。


 キアナから生まれた悪の化身はキアナと同じでキアナと違う。


 キアナは醜い顔の者は最低限の生活を与えて、才能だけを発揮させてくれた。


 それに比べるとモリガンは顔の良し悪しだけで才能も発揮させること無く殺したために、死んでも死にきれない者が多かった。


 そして、キアナは男が望む愛を叶える努力はしていた。


 しかし、モリガンは大人の女を皆殺したのだ。


「酷い………酷すぎるわ!! いくらなんでも、心まで奪うなんて!! こんなの『愛』じゃないわ!!」


 キアナがモリガンに心まで奪われた男たちを見て悲痛に思う。


 しかし、モリガンは違った。


「馬鹿ね………こんないい男が他の女に騙されるなんて………勿体ないでしょ?」


 キアナは涙を流した。


 その涙はいい男に対する同情でもあり、健全なものではないだろう。


 しかし、キアナにとっては耐え難い苦痛である。


「あなたは私じゃない!! 私がみんなを助けるわ!!」


 覚悟を決めたキアナが本気になってモリガンに挑む。


 不完全とは言え、あの闇の支配者である『ゾーク』を退けたモリガンだ。


 だが、それを生み出したのはキアナだ。


 列に並んでいる男たちが応援した。


「キアナ様!! がんばってください!!」


 皆が期待する中でキアナはありったけの魔力を込めてモリガンにぶつける。


「喰らいなさい!! ファステート・ゼロ!!」


 モリガンはキアナの魔力を魔槍で受け止めた。


「あなたって馬鹿ね………私に勝てるわけ無いでしょ?」


 しかし、モリガンはキアナの魔力を魔槍で弾き返す。


 ゾークの力によって、キアナの力は殆どモリガンに奪われてしまった。


 今のキアナなら、そこらの魔法使いといい勝負をしてしまうだろう。


「くッ!!? ごめんなさい………私には、この国を守る力が残ってないみたい………」


 キアナが跪くとホルスがキアナの前に立つ、キアナは驚いてホルスの背中を見上げた。


「あれは私の敵です。キアナ様は皆さんとどうかお逃げください………」


 そう言うとホルスがエクゾディアの左腕だけを背に生やした。


 まるで片翼の天使だ。


「それに、この国の皆さんはキアナ様のことが大好きみたいですよ………」


 ホルスがキアナに微笑むとモリガンが容赦無くホルスに突っ込んできた。


「エクゾディア!! なんと惨めな姿!! 私が殺してあげるわ!!」


 エクゾディアの左手が魔槍を受け止める。


 しかし、モリガンの魔槍でもエクゾディアを傷付けることはできなかった。


 その圧倒的な魔力にモリガンは跳ね返されてしまう。


「な、なんてパワーなの………!!? でも、私にはキアナの力とゾーク様の力があるわ!!」


 ホルスが言う。


「ゾークが何だというのですか? 闇の世界の支配者が、この世界を支配できないでいるのは、エクゾディアが強すぎるだけ………ゾークなど、恐るるに足りません!!」


 エクゾディアの左手からエネルギーが圧縮され、高密度になって行く。


 そのエネルギーが放たれるとモリガンの右目を貫いた。


「ぎゃあああああ!!!」


 ホルスは勝ちを確信した。


「動くな!! この女がどうなってもいいのか!!」


 振り返るとモリガンを拒んできた男たちが魔槍により心を奪われてキアナを人質に取ってしまったのである。


「よくも………よくも私の美しい顔に傷を!!!」


 片目を失うモリガンは悍ましくも再生し、醜い目を持っていた。


「死ね~~~~!!!!」


 モリガンの魔槍に真紅の強い輝きが放たれる。


 異常な魔力は戦慄を覚えさせられた。


 その真紅の輝きが魔力となってエクゾディアの左腕を貫いた。


「ぐぅあぁぁあぁぁああぁぁぁあ!!!?」


 あのエクゾディアが悲鳴を上げている。


 ホルスは押さえつけられており、身動きが取れない。


「ファステート・スピア!!」


 モリガンが容赦無くゾークの左腕をもぎ取ってしまう。


「あっはっはっはっはっはっは!! ゾーク様!! モリガンはやりました!! ゾーク様にこの左腕を捧げましょう!!」


 モリガンが闇の世界へエクゾディアの左腕を捧げると天から禍々しい声が聞こえる。


「おぉ、これがエクゾディアの力か………なんというパワーだ………これこそ、私が望んだ力である!!」


 全世界の絶望、この世界を驚異、闇から守ってきたエクゾディアの左腕が奪われてしまった。


 それは、この世界の5分の1を闇に引き込むことを意味する。


「はっはっはっはっは、この世界の2割は俺の闇によって支配された!!」


 キアナの国が闇で包まれていく。


 もう、この大地に人が住む資格はない。


「すみません。私が未熟なばっかりに………」


 ホルスがキアナに謝罪する。


「違うは………私の心が弱かったからゾークの侵略を招いたのよ!!」


 キアナが己の不甲斐なさを嘆く。


 しかし、そんなことは思っていないものが居た。


「それは違います。キアナ様は我々のために政治を行ってくれました。」


 一人の博士が現れる。


 また、一人が現れて言う。


「はじめはキアナ様を追い出すために作り上げた発明品があります。」


 博士らの告白にキアナが驚く。


「我々は『ドーパミン』を研究していました。」


 これを聞いたキアナは驚く。


 そう、我々人間の性欲はドーパミンD2受容体を阻害することで失う生命体なのだ。


 詰まり、この薬を飲むと一時的に異性の魅力を感じなくなるのである。


「この薬はそれを阻害するどころか、阻止致します。」


 科学者がキアナにカプセルを差し出した。


 そして、こういう。


「我々、国民一同は、キアナ様を国の女王と認めます!!」


 キアナはその薬を手に取るとキアナに魅了されたまどかに命令する。


「モリガンを倒せる英雄を召喚しなさい!!」


 まどかが了承する。


「わかりました!! 二槍には二槍、英雄召喚!!」


 まどかが召喚した英雄は中国の三国時代、蜀軍から最も恐れられた武将、張郃(三国志~龍虎演舞~を参照)であった。


 その張郃は右手に長槍、左手に短槍を持っていた。


「張郃………参上………我が主よ。ご命令を………」


 キアナがまどかに命じる。


「この薬を飲ませてあの化け物を倒させなさい!!」


 まどかはそれに従う。


「この薬は相手の魔術を防ぐもの………石化の魔槍には気をつけなさい。相手の左手の槍よ。」


 張郃は薬を飲んでモリガンと対峙した。


「この張郃、肝に銘ずる………」


 張郃が二槍を持ったまま大胆不敵に構える。


 モリガンは張郃のことを侮っていた。


「誰かと思えば人間風情が私に勝てると思わないことね!!」


 モリガンの魔槍が張郃に襲いかかる。


 しかし、張郃は動かない。


「な、張郃!! それを避けて!!」


 張郃が答える。


「それは不可能です………」


 モリガンの魔槍が張郃の眉間に接触する瞬間、目にも留まらぬ速さで相手の魔槍を踏みつけて圧し折ると長槍でもう片方の魔槍を受け止める。


 そして、短槍で相手の左肩を切り落としていた。


 余りにも鮮やかな槍捌き、流れるような連撃、一長一短で身につく芸当ではない。


「ぎゃああああああああ!!!」


 モリガンの悲鳴が上がる。


「なぜなら、この槍は私のものになってしまうからです………」


 そう言うと張郃は己の短槍を捨てて、折れた敵の魔槍に持ち替えた。


 モリガンは張郃の姿に修羅を見てしまう。


「さて、人外に石化の魔槍は効くのか試してみるか………」


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