第3話 闇の支配者と世界の支配者と………

 魅惑の女王はキアナという。


 キアナはホルスが滅ぼした王都へ調査隊を送り付けた。


 しかし、王都では既に異変が起こっていた。


「あれは何だ!!?」


 王都の中心から黒く禍々しいオーラのようなものが吹き出している。


 それを一人の調査隊が調べに行くと、『闇』が調査隊の体内を即座に包み込んだ。


「まずい!! なんとかするんだ!!」


 しかし、時既に遅し、一人の調査隊の影が邪悪に染まる。


「ふっはっはっはっはっはっはっはっは!! おぉ、『闇の支配者』様!! ついに、エクゾディアの世界を支配されるのですね!!」


 エクゾディアと対になる存在、魔の手が迫っていた。


 その手は、もう既に我々の足を掴んでいる。


「ーーーーーーーーキアナ様!!」


 一人の調査隊が帰還した。


「そんなに慌ててどうしたの? それに、皆は?」


 男はご乱心だ。


 報告など頭に入っていない。


「もうだめです!! 奴が、奴がそこまで来ているのです!!」


 この報告にキアナは何も言わず外に出る。


 そこにはキアナの愛した男が黒いオーラを纏って立っていた。


「な、なんというオーラでしょう!! こ、これは………」


 ご乱心だった男がキアナの目を隠した。


「キアナ様………決して奴を見てはいけません………ヤツに魅了されれば………身も心も支配されてしまいます………」


 キアナが視線をその男から逸らすとご乱心だった男は即座に逃げ出した。


 キアナは悪人だ。


 己の欲望には敵わない。


 そこにいる者が好みの男性なら尚更だ。


「キアナ………こっちを見てくれ………」


 その甘い声にキアナは振り返ってしまう。


「バカめ………」


 闇の力がキアナを支配する。


 そして、キアナにこんなことを言わせるのである。


「ホルスを………ホルスを殺すのです………これは勅命です!!」


 キアナの勅命は全土に広がり、事情を知らない忠義の者たちは皆これに従った。


 魅惑の都は数分で闇の都として生まれ変わる。


 このことは上杉がキアナを監視していたために一部始終を知っていた。


 『奴』を『見てはいけない』。


 この情報を上杉は逸早く『ホルス』に伝えなければならない。


 だが、その前にしなければならないことがある。


「主人よ。訳は追々………今は先を急ぎます………」


 上杉にとって潜入、盗聴、暗殺などは造作もないこと、まどかは魅了されたままであるが連れ出されてしまう。


 上杉は闇の支配を受ける前にまどかを匿ったのだ。


 まどかはキアナに魅了されているため、キアナを嫌でも見るだろう。


 それを恐れてまどかを監禁した。


 そして、ホルスのもとへと急ぐ。


「待ちな………」


 上杉が立ち止まる。


 『零』を使っている上杉を『認識』する『存在』、そんな存在は『一人』しか存在しない。


「久しぶりだね………上杉くん………」


 その懐かしい声、振り返ればそこには『桜井 隼人(クリスタルバスケの小説参照)』が居た。


「なるほど………『伝説の決着』をここで着けるか………?」


 上杉はホルスのことよりも己の決着を優先してしまう。


 いや、それだけ手強い相手ということだ。


 一方、その頃、ホルスはと言うと………


「あなたがホルスね!! 悪いけど、拘束するわ!!」


 キアナに忠義を誓う者たちに追われていた。


 彼、彼女らはホルスがどれだけ圧倒的な力を見せつけても命を掛けて勅命に従う。


「すごい………これでは、こちらも手加減ができなくなります………」


 ホルスはバステトだけでなく『不死の霊鳥・ベンヌ』も召喚する。


 ベンヌは不死であり、西洋では『フェニックス』として知られている。


「全てを焼き払いなさい………ベンヌ!!」


 ベンヌの炎は全ての生命を焼き尽くす。


 しかし、生命は全て蘇る。


 浄化の炎として、灰にされた生命は新たな生命を宿し、彼、彼女らは生まれ変わる。


「な、なんて美しい心の持ち主たち………ベンヌが全く汚れないなんて………」


 ベンヌは召喚士の力を大きく喰らう。


 しかし、この時ばかりはなぜかホルスの力が奪われるどころか増幅したという。


「流石は『世界の支配者』を封じるものね………私の相手に相応しい………」


 ホルスの前に闇キアナが現れる。


 闇の力を纏ったキアナは先程までと桁外れの魔力を放った。


「な、なんという魔力………この魔力は………!!?」


 大地が揺れる。


 キアナは非凡の才を持つ者、神から与えられたその魅力、闇の支配者がそれを悪魔に変える。


「ふっはっはっはっは!! なんという魅力(ちから)だ!! これほどの力をこの女は与えられたまま、この世界を魅了しないとは、勿体ない!! この俺が正しくその力を使ってやろう!!」


 魔人・キアナが召喚する己の悪魔。


 その名は『モリガン』。


「この悪女・モリガンの愛を受け入れ、その身を捧げた男のみ、人々から奪い取った税で支援してあげるわ!!」


 そう、モリガンはそういう悪魔、キアナとしてきたことは同じだ。


 そして、あろうことか、モリガンは生みの親である闇の支配者を攻撃したのである。


「くッ!!? このキアナとかいう女、思ったよりも魅力(ちから)が強い。ふっふっふ、不完全とはいえ、この闇の支配者を超えるか!! だが、キアナは闇に落ちたことに変わりはない!! 我の力が完全に復活するまで、この世界を好きにするが良い。ふっはっはっはっはっはっはっはっは!!」


 闇の支配者は消え去り、この世界をモリガンに委ねられた。


「はッ!!? 私は何を!!?」


 キアナらは意識を取り戻す。


 しかし、モリガンはその場に残り続けた。


「………はっは、やっぱ強いね………上杉くん………」


 上杉が主人よりも優先した敵との決着が付く。


「ふん、勝負はまだ終わっていない。これで2512勝2512敗だ。」


 二人の男は笑いあった。


 その後で現状を見る。


「余り時間は無いみたいだな………」


 上杉がそう言うと、桜井は姿を消した。


「次会う時もどうやら仲間みたいだね………流水の極意………見事だったよ。」


 桜井の言葉に上杉が笑っていう。


「俺が覚醒できたのは、お前のお陰だ………さて、主人も元に戻ったし、俺の役目も一旦終わりだな………」


 上杉がそう言うと同じように姿を消した。


 だが、この国は圧倒的な魔力に包まれてしまう。


「あっはっはっはっはっはっはっはっは!! この国は全部私のもの!! キアナ………あんたが我慢してたことを私は我慢しない!! 醜いものは全部殺すわ!! そして、全ての宝石も私のものよ!! 勿論、いい男もね!!」


 モリガンは二本の魔槍を手に取り、一突きされた者は宝石にされ、もう一突きでその者は虜にされてしまった。


 モリガンの持つ魔槍は『魅惑の魔槍』と『石化の魔槍』であった。


「流石、醜い豚どもだわ………不純物が多くて黄色いダイヤね。炭素が泣いてるわ。これを本物のダイヤにしなさい。後、あの男、すっごく好みね………」


 モリガンのやってることは残虐非道ではあるが、非道の中に美があった。


 その美に魅了され、骨抜きにされた老若男女は無抵抗で彼女の槍の餌食となってしまう。


「う、美しい………なんて美しいのでしょう………!!!?」


 キアナもモリガンのその魅力に抗えず、魅了されてしまっていた。


「み、見てみたいわ!! あなたの望む世界が………!!!」


 キアナは国を守ることをすっかりと忘れてしまっていた。


 ホルスもまた、モリガンの振る舞いに魅了されてしまってしまう。


 魅惑の都は無抵抗のままでモリガンに支配されてしまった。

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